こらぼでほすと 一撃8
大きな冷蔵庫と冷凍庫が装備されているので、そこに、いろいろなものを作っては冷凍し
ていく。夕飯は、基本的に店で食べさせてもらえるのだが、夜食とか昼飯とかは、自前で
準備しておくことになる。
タッパーや冷凍用のジッパーに詰めたものの説明を書いていると、悟空が顔を出した。
「そこまでしなくてもさ。」
「まあ、詰めきゃ役に立つだろ? そういや、悟空は、三蔵さんにバラの花は贈らないの
か? 」
「バラ? うちの親父に? 」
「父の日の定番だって、レイが言ってたぞ? 」
それを聞いて、あーと悟空も頷いた。そんなもの、養子になってからやったことはない
。
「うちはない。そういうのするような雰囲気じゃないじゃん。」
「でも、おまえさん、俺にはカーネーションとかくれるじゃないか。」
「そりゃさ、ママには日頃のお礼とか兼ねてるから。さんぞーには、そういうのはいらね
ぇーよ。」
親子というより、もっと強い絆みたいなものがあって、それは感謝するようなものでは
ないと、どっちも思っている。それに、男親なんてものは、そういう甘ったるいことは恥
ずかしがる。
「そうなのかな。まあ、花ぐらい贈ってやれば? 」
「いいよ。」
「レイたちがトダカさんに贈るから、一緒に頼んでもらえば買いに行かなくてもいいぜ?
」
「俺、花ぐらい買いに行けるさ。・・・・それより、おやつは?」
本日は、ウイークデーだ。これから、バイトがある。ニールも出勤する日はあるが、今
日は休みだった。週三日ぐらいにしておけ、と、みんなから言われている。
「中華丼。メシ、好きなだけ盛れ。具は、そこの鍋。」
大鍋に、中華丼の具は作られている。誰が来るかわからないので、大量に作って余った
ら、これも冷凍だ。
「やりぃーこれ好き。ママのは、汁が多いから美味い。」
棚から、ラーメン鉢を取り出して、悟空が炊飯器かせ飯を盛る。たっぷりと、具を載せ
たら完成だ。これだと暑くても食べられるし、三蔵の酒のアテにもなる。わしわしと、食
卓で食べている悟空に、言い辛そうに、ニールが明日の予定を伝える。天気予報では、明
日から崩れて、入梅するということになっていた。
「あのさ、悟空。明日から弁当は無理だと思う。」
その言葉に、悟空も食べるのを止めて、ニールのほうを向く。年少組は、すっかりと天
気予報を見るクセがついていて、そのことは知っていた。
「入梅だもんな。きゅうりとさんぞーの世話は任せて。」
「きゅうりは、どっちでもいいけど、三蔵さんは頼む。また機嫌悪いかもしんないけど。
」
「あはははは・・・・・慣れてる慣れてる。大人しく養生して、早めに帰ってくれな?
ママ。」
「それは、お天道様に頼んでくれ。俺にはわからない。」
「見舞いにも行くからさ。たぶん、歌姫さんの相手もしてやって。ここんとこ、忙しかっ
たみたいだから。」
「相手ねぇー。具合の良い時はしておくさ。」
それだけ会話すると、また、わしわしと悟空は、ごはんを飲んでるのか? な勢いで、
ラーメン鉢を傾けていく。タッパーのメモを貼り終えたニールは、三蔵の晩酌の用意をし
て、同じように明日からの予定を告げたが、坊主のほうはギロリと睨んだだけで、「煩い
のがいなくて、せいせいする。」 と、吐き出した。
翌日、まだ外は晴れていたが、勤行の声が聞こえてもニールは目を覚まさない。そっと
悟空が障子を開けて様子を伺うと、やはり動きはない。午後から雨だというから、気圧は
すでに変化しているのだろう。
ハイネも、きちんと天気予報は確認しているらしく、昨日は、こちらに帰ってきた。本
宅へ移送するつもりだろうが、こちらも起きてこない。
「さんぞー、メシの支度できたぞー。」
勤行が終わったら、悟空が声をかける。おう、と、坊主も家のほうへ戻って食事した。
毎年のこととなりつつあるが、これからは、二人生活だ。
「ティエリア、早く降りてくればいいのにな? 」
「あいつもわかってるから、降りてくるだろう。サル、こっちに戻らないで、店で合流で
いいぞ。」
「おう、そうする。」
ニールのおやつがあるから、一端、家に戻っていたが、それがないなら、わざわざ戻っ
てくることもない。時間が空いていれば、戻ってくることもあるが、まあ、二人の時は、
そんな感じだった。
悟空が登校すると、卓袱台のものを台所へ片付けて、いや、シンクにおくまでしかやら
ないが、ペットボトルのお茶を食料庫の棚から取り出して、脇部屋に赴いた。
「おい。」
障子を開けて、声をかけると、もそもそと、その物体は動いている。目は覚めたらしい
。布団の傍に座り込んで、とりあえず、ペットボトルのキャップを空ける。
「飲め。」
「・・・はい・・・・」
もそもそと動く物体は、ようやく腕を伸ばしてきて、それを受け取る。他のものなら、
起き上がらせて飲ませるが、坊主は、そこまではやらない。こくこくと飲んで、ふうと息
を吐くので、それを横に置く。
「予定通りだな? 」
「・・・はい・・・・すいませんね。」
もそもそとニールも動いて、枕に頭を乗せ直した。熱はないのか、顔色はいつも通りだ
。それでも、水分ぐらいは補給させないと脱水して余計に具合が悪くなるから、坊主も、
それだけはしてくれるのだ。悟空は、まだ、そこまで気が廻らない。なんせ周辺の人間と
か人外は、そんなに弱ることはないからだ。
「どうせ、ハイネがいるんでしょ? 」
「まだ寝てるがな。」
「起きたら運んでもらいます。」
「おう、そうしろ。便所は?」
「あー行っとこうかなあ。」
倦怠感でぐだぐだで起きるのもやっとなので、こうなってくると運んでもらうしかない
。ひょいと坊主が担いで運んでくれる。何もしないと思われがちだが、誰もいなければ最
低限は世話してくれるので、ニールしか知らないのも無理はない。
「メシは? 」
「無理。もういいですよ。後は寝てますから。」
「・・・・ったく、厄介な病だな? 」
「・・・ほんとにね・・・・手足に力が入らない。」
解決策がないので、どうにもならない。本堂から灰皿を持ってきて、脇部屋の前でタバ
コを燻らせて、坊主も様子を見ているしかない。空はまだ青空の部分もあるというのに、
気圧は、ちゃんと変化している。それが証拠に、ニールは動けないで、ぼんやりと空を眺
めているだけだ。
「おまえ、今年は、俺の世話がおざなりだ。後半戦はしっかり働けよ? 」
「はいはい。」
「桃色子猫が夏にも降りてくるんだからな。」
「あーそう言ってましたね。でも、カガリが遊んでくれるって言ってたから、俺の出番は
ありません。」
「あの筋肉バカも暇じゃねぇーから、せいぜい二、三日のことだろ。その後は、遊んでや
らなきゃならんぞ? 」
「・・・みんなでプールでも行きましょうか? あんた、泳げるんですか? 」
「誰にモノ言ってやがる。俺は泳げるぞ。おまえは? 」
「泳げません。」
作品名:こらぼでほすと 一撃8 作家名:篠義