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長い長い家路

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百億光年の漂流


「各部署、被害状況を把握せよ!」
艦の状況を把握し、ダメージコントロールを司る船務長の号令が聞こえる。
「う…」
バトルフロンティア副長ラウル・エステファン大佐は第二艦橋のシートに座ったままの姿勢で意識を回復した。
「大丈夫ですか、副長!」
第二艦橋要員の中では船務長が最も早く意識を回復したらしい。
「あ…ああ」
エステファン大佐は、指先から順番に随意に動くかどうかを試した。
とりあえず怪我はしてないらしい。
第二艦橋では衝撃から立ち直った要員達が事態を把握しようと動き始めている。
「状況を」
「はっ」
船務長は副長席のディスプレイに調べた状況を表示させた。
バトルフロンティアのCDC(戦闘指揮所)は、占拠したマクロス・ギャラクシー船団のエージェントにより全滅。
ハワード・グラス大統領と閣僚たち、フロンティア護衛艦隊司令と幕僚、オペレーターは全員死亡か行方不明。
エージェントも艦橋に突入してきたVF-27の至近距離からの攻撃で全滅した模様。仲間割れか?
「これは…」
バトルフロンティアは巨大な軍艦であると同時に六つの艦が集合したものだ。
指揮空母が胴体と頭脳。左右の腕にあたる部分が空母、両足が突撃戦艦、主砲も独立した重砲撃艦として運用が可能だ。
通常、指揮空母の艦橋に情報が集中するが、そこに何か異変があると右腕の第二艦橋に指揮権が移譲され任務を継続する。
エステファン大佐は、現在所在が確認されている幹部の位置情報を検索して、軽い落胆を覚えた。
どうやら自分が指揮を掌握する必要があるようだ。
「全艦に達す、第一艦橋が機能不全状態になった。フロンティアとも通信が途絶。よって、バトルフロンティア艦長の権限をエステファン大佐が引き継ぐ。各自持ち場の状況を確認し報告せよ」

「大丈夫?」
女の声でアルトは意識を取り戻した。
緊急フォールドの衝撃で気絶していたらしい。
「これは、いくつ?」
声のした方を見上げると、Vサインの手が見えた。
「えーと、2」
アルトが答えると、女は右手で3本指を立て、左手も同じようにした。
「ろ、6」
女は手をさし出した。
「大丈夫なようね。立てる?」
アルトはその手を握って立ち上がった。
体が軽い。
EXギアが除装されていた。
握った手の柔らかさを意識してから、ようやく女の顔を見た。
東アジア系の若い女だ。
「所属と名前を」
誰何されて、アルトは背筋を伸ばし、敬礼した。
「SMS、スカル小隊所属、アルト早乙女少尉」
女も背筋を伸ばす。
「新統合軍、フロンティア護衛艦隊、バトルフロンティア医務員、ミオ入江少尉…アルト少尉、あなたは、そこで気絶していた」
ミオ少尉が指し示したのは、非常用のエアロックだった。
バジュラ女王がフォールドした瞬間、外部にいたはずのアルトがどうやってエアロックに入り込めたのか、記憶には残ってない。
「少尉、今、この艦は…現在位置はっ?」
ミオは表情を曇らせた。
「分からない。調査中よ」
「惑星は? アイランド1は?」
「分からない…」
ミオは語尾に不安をにじませた。
「バトルフロンティアと融合したバジュラ女王がフォールドしたまでは分かっている。でも、ここがどこなのか、まだ手がかりは無い。どこかの地球型惑星の衛星軌道上らしいけど、既知の天体ではないわ」
「…そう…か」
絶句しかけたところで、アルトの意識にバジュラ女王のメッセージが割り込んだ。
(……離脱……)
「離脱? 女王が?」
アルトの独り言にミオが質問した。
「何? アルト少尉、何を?」

「なんだ、この振動は!?」
エステファン大佐の問に答えたのは、外部状況を探査している観測手だ。
「バジュラ女王が、本艦から分離しています!」
バトルフロンティアの外側を包み込むように融合していたバジュラ女王は艦体から分離し、パーツが寄り集まって元の形を取り戻そうとしていた。
強靭な外殻を持った巨大な甲殻類。
その姿はフォールド特有の紫の光に包まれて、どこかへ跳躍する。
「フォールドレーダー、追跡可能か?」
大佐の声にレーダー員が反応した。
「記録していますが…観測可能閾値を越えています!」
「追跡できるか?」
今度は航宙長が答える。
「不可能です。本艦のフォールドエネルギーは払底しています」
「追跡機は出せないか? 無人機は?」
空母航空団司令が指揮所から通話で連絡してきた。
「ゴースト発進させます!」
緊急発進した無人戦闘機AIF-7Sの2機編隊がバジュラ女王が残したフォールド光に飛びこむ。
「ゴースト撃墜! 女王、ロストしました」
間髪入れずに女王が迎撃したようだ。
「追うな、と言うことか」
エステファン大佐はシートに深く腰掛けた。
「現在位置について何か判ったか?」
天文観測していたレーダー員が、ためらいがちに言った。
「全天を走査しましたが、既知の天体はありません。また、フォールド中の状況を解析した結果、本艦は最大で100億光年の超々長距離フォールドに巻き込まれた可能性があります」
ザワ、と第二艦橋内に声にならない波紋が広がった。
「人類史上に残る新記録、ですな」
エステファン大佐は、その軽い口調にいらついた。
横目で声のした方を見ると、予想したとおり砲雷長のレ・バン・カイン中佐だった。
40絡みの引き締まった体躯の男で、腕の良い大砲屋だが、ちょっとした一言で他人を苛立たせる才能は艦橋要員の中で一番だ。
「索敵を継続しろ。バジュラ女王のフォールドに巻き込まれたのは我々だけではないかも知れない。天体観測をしているグループは精度を上げろ。何としても現在位置の手がかりを掴め」
天文観測チームから興奮した声が上がった。
「近傍の地球型惑星に都市らしき構造があります!」
エステファン大佐は第二艦橋のメインモニターに映像を出させた。
惑星は火星のように赤茶けた表面に、白く薄い雲がまつわりついている。
低緯度地帯にひとつだけ、大規模な人工物の集積が見える。
光学センサーがズームアップした。
どうやら、透明感のあるガラスのような素材のビルが集まっているらしい。
「あれは生きているのか?」
エステファン大佐の質問に観察員が反応する。
「エネルギー活動レベルは非常に低いです。おそらくは遺跡ではないかと……様式はプロトカルチャーのものに一致します」
モニターの画像は倍率を上げて、より詳細な都市遺跡の様子を映し出す。
「あそこの直線は…滑走路か?」
観測チームの中から声があがる。
「見ろ、機体が」
滑走路上に唯一、航空機らしいものが写っていた。
「見慣れた形…ガウォーク? まさか、バルキリー?」
「ズームを」
大気の揺らぎの向こうに、はっきりと機体のディテールがわかる倍率まで拡大された。
艦のコンピュータが形式を照合する。
「VF-0A…だと? まさか…TNRTE(熱核反応タービンエンジン)さえ積んでないジェット機だぞ」
エステファン大佐は、レ中佐を横目でチラリと見た。おもむろに口を開く。
「どうやら、人類史上では二番目の記録になりそうだな」
VF-0Aフェニックスが運用されていたのは2008年頃、地球の統合戦争末期。現在から半世紀以上前のことになる。
「そのようですな」
レ中佐は平板な口調で返事した。
作品名:長い長い家路 作家名:extramf