立ち竦む恩寵
我は、此処に。
決してぬしを裏切りはせぬ。
男が緩く囁き、背を撫でるような声が身の内で叫ぶ何かを鎮めていく。
ならば、いい。裏切るな。裏切るな、決して私を裏切るな。貴様は、私を、裏切らないのだろう。
喪失を抱えてなお笑う鬼が、隻眼を細めて告げる。
俺は、あんたが気に入った。
不思議な男だ。奇怪な鬼だ。なぜ、笑う。貴様はどれだけ奪われた。唾棄すべきもの、穢れた郷愁、なぜ憎しみを吠えながらそんな眼をして笑うのだ。
空は青く、
吸い込まれるほどに青く、
鳥が啼き、風は髪を散らして吹き抜けて、春の色をした花弁が舞う。
世界は美しいだろう、
―――三成。
必ず最後に名を付け加えて、男が世界の中心で笑う。
三成は、世にある総てに祝福されるような柔い光を帯びた男を見つめている。
不愉快だ。
まるで、眼が焼かれる、ように。
そう思いながらも眼を逸らすことなく、波打つ感情に不快という名を冠せて覆い、その根源が何であるのかなど疑いもせずに。
ずっと見つめている。
何を奪われ、何を奪わせ、何を奪った。
私は貴様の思うままにと総てを委ね、
自ら滅ぼした相手に手を取れなどと嘯いて、
罪を犯したのは、誰だ。
裏切者は――誰だ。