こらぼでほすと 一撃9
「俺は、なんにもしてないよ。」
「ラクスはキラには弱音を吐きませんから。もちろん、俺にもですが。」
どちらもできることをやる、と、決めている。だから、どちらも、相手には弱音は吐け
ない。どちらも並んで立っている存在だから、寄りかかるわけにはいかないのだ。スタッ
フにも、同じことだが、ニールだけは除外されている。だから、ラクスも愚痴も言えるし
、弱音も吐ける。
「聞いてやるぐらいしかできないんだけどな。」
「聞いてもらうのは有難いですよ? 俺だって、そう思います。」
アスランはキラに、キラはアスランに、弱音でも愚痴でも吐き出して解消できる。一緒
に居ると決めたからだ。どんなことも、二人でやると決めたから、それができる。今まで
は、ラクスには、それがなかったから、キラが何より必要だった。弱音も愚痴も吐けない
が、キラがラクスを包んで癒していたからだ。その部分の負担が、少しニールに傾いたの
で、ラクスも気分的に楽になったはずだ。何も言わないで包んでもらうのと、吐き出して
すっきりするのと両方あれば、誰だってそうだろう。
「あはははは、アスランに褒められるのは悪くないな。」
「褒めてませんよ。感謝してるんです。始めますよ?」
映画の再生を始めて、部屋を暗くする。最初から、スピード感のある作品なのだが、途
中でアスランが気付いたら、ニールのほうは沈没していた。いつもより具合がいいといっ
ても、歌姫様に付き合っていたのだから疲れたはずだ。それを、ちっとも感じさせないの
が、トダカ曰く、「うちの娘さんは外面がいい。」 ということなのだろうと、アスラン
も映像を止めて、上掛けを探しに外へ出て苦笑した。
どうにか、自分のノルマをクリアーしたら六月を越えていた。そして、特区の気象情報
で、紫子猫は慌てて、地上へ降下してきた。すでに、入梅していて、親猫は寝込んでいる
と推測されたからだ。
降下予定を送っておいたら、エアポートに出迎えが待っていた。カッパとイノブタ夫夫
が、アライバルゲートの前に立っている。
「いらっしゃい、ティエリア。ママニャンは本宅だ。」
「容態は? 」
「この雨だぞ? 確実に寝込んでるよ。」
「それで、本宅で顔だけ見せて、ラボに向って欲しいんです。」
「なに? 」
ティエリアにしてみれば、親猫の看病に降りて来たのが主目的だ。『吉祥富貴』からの
依頼なんてものに応える義務は感じていない。ギロっと八戒を睨んで、言外に、「お断り
だ。」 と、匂わせる。
「キラくんが、ヴェーダのことで、あなたの意見が聞きたいんだそうで、そちらと合流し
ていただきたいんですよ。ニールは、昨日から意識もはっきりしていませんから、傍にい
ても、あまり意味はないんで、今のうちに、ということなんですが。」
「ヴェーダだと? キラは、何をするつもりなんだ? 八戒。」
「僕も詳しいことは聞いてません。」
電脳世界のことは、八戒や悟浄には皆目だ。ただ、キラがティエリアを召還しないと先
に進めないらしく、強引に連れて来て欲しい、と、説得役に指名してきたのだ。さすがに
、親猫の顔も見せないで、ラボに連れて行くのは、問題があると思ったから、独断で本宅
経由にしたに過ぎない。
「ロックオンの容態を確認して、ラボへ連絡する。」
「ええ、それで結構です。では、参りましょう。」
さすがにヴェーダに関することとなると、ティエリアも無下に断れない。一部、ヴェー
ダは使用できているが、これも、いつまでかは定かではない。何か、それについての打開
策でも思いついたというのなら、話は聞かなければならない。
歌姫様が、ユニオンへ出張して翌日から、天候は悪化した。いきなり、豪雨という勢い
で降られてしまうと起き上がるとかいう問題ではない。ぐったりして発熱してしまった。
こうなってくると、一時、医療ポッドへ避難したほうが安全なのだが、ティエリアの降下
が知らされていたから、その顔を見るまで待ってください、と、当人が言い出した。頼み
たいことがあるらしい。
「八戒くん、ご苦労様。ティエリアくん、きみとの話が終わったら、ニール君は医療ポッ
ドに入れるので、そのつもりで。」
「ロックオンは、それほど悪いんですか? ドクター。」
「まあ、悪いだろうね。この勢いで雨が三日も降るのなら、さらに弱るだけだ。弱らせる
より安全策を取りたい。」
天候の回復は、まだ三日は先だ。そうなってくると、このままニールは寝込んでいるだ
けで回復はしない。その説明をカルテを元にドクターはする。なるべく体調は維持させて
おきたいのが、ドクターの目的だ。それには、ティエリアも同意する。
「何か、きみに頼みたいことがあるんで会わせてくれ、と、頼まれているんだ。」
カルテでデータの確認をするとティエリアは、すぐに部屋に入った。頼み事なんて珍し
い。何だろうと思った。
「ロックオン、俺だ。」
ぐってりダウンしている親猫に声をかけたら、薄っすらと目が開いて微笑まれた。よお
う、と、弱弱しい声が聞こえる。
「俺に頼み事って、なんですか? 」
「・・・・うん・・・・・あのな・・・・日曜日に・・・・三蔵さんにバラ・・・贈って
欲しいんだ。」
「はあ? 」
「・・・特区のイベントでな・・・・・おまえさんも・・・世話になってるだろ? ・・
・・カード、そこにあるから・・・・それで・・・バラの花束・・・・頼むよ・・・・俺
、ちょっと、日曜は無理そうだ。」
親猫のたどたどしい話を要約すると、特区のイベントで、「父の日」 というものがあ
って、それはバラの花を贈るものだという。ロックオンは亭主に、それを贈ろうと思って
いたのだが、当人が動けないから、ティエリアに頼みたいとのことだ。
「そんなことですか? 他には? 」
「・・・ないよ・・・・・・それだけ。」
もっと組織のこととか「吉祥富貴」のことかと思っていたティエリアは拍子抜けだ。た
だのおつかいぐらいで、そんなに真面目に頼まないで欲しい。
「わかりました。日曜日にバラを贈ればいいんですね? ロックオン。」
「・・うん・・・ああ、俺・・・コードネームやめたんだ。・・・・ティエリア、ニール
って・・・呼んでくれ。」
「ええ? それは、どういうことですか? あなたの登録を抹消しろとか言うなら、俺は
反対です。」
「・・・・いや・・・こっちで・・・・コードネーム使う意味が・・・ねぇーからさ。」
「わかりました。・・・・ニール、ただいま。」
「・・はい・・・おかえり・・・ティエリア・・・・すまないけど・・・頼んだよ・・・
」
「了解です。あなたは、ゆっくり養生しててください。そちらは、俺が完璧に遂行してお
きます。」
紫子猫が、大声で言うと、うんうんと頷いて、親猫は目を閉じる。発熱が高くて、かな
りしんどいらしい。ドクターを呼んで、医療ポッドに叩き込んでもらうことにした。これ
作品名:こらぼでほすと 一撃9 作家名:篠義