こらぼでほすと 一撃9
どちらも、そう言って苦笑した。どちらも、その厄介な人間だからだ。戦えば得られる
ものはあるが、それと同様に失うものがある。それを覚悟していなければ、戦えないのは
、どちらも理解している。ただ、失うわけにはいかないものもある。
「ニールには生きていて欲しい。俺のエゴと言われてもいい。もう失いたくない。」
「私くしも同意見ですわ。おそらく刹那も。」
「だから、ニールのことは頼む。」
「わかっております。どんなことをしても、あなた方がお戻りになるまで護ります。」
重い空気になった。それも難しいのは、どちらも承知のことだ。ふっとティエリアは微
笑んで、「おまえは、嘘が上手い。」 と、投げた。
「あなたこそ。お戻りになる覚悟はしてくださいませ。」
「わかっている。・・・・・一ヶ月、滞在する。キラがヴェーダの攻略をしている。それ
は知っているか? 」
「ええ、手伝ってくださっているのですね。」
「それを終わらせるまで、滞在は引き伸ばせるが、それだけだ。次は、刹那が戻るだろう
。」
「その前に、フェルトを降ろしてくださいな。」
「ああ、そうだったな。」
夏に、もう一度、フェルトは降下する予定だ。キャンセルされたら、楽しみにしている
親猫も、約束しているカガリもがっかりするから、それについては、歌姫も念を押した。
口にしたことは、なるべく変更しないで欲しい。降りてこないなんてことになったら、何
かあったのか、と、親猫が心配する。
食事を終えると、歌姫は、「お暇なら、一緒にお寺まで行きませんか? 」 と、ティ
エリアを誘った。
「さっき行って来たところだ。それに、俺は暇ではない。」
「そうですか。では、私くしも、少しママのおつかいに行ってまいります。」
「父の日か? 」
「ええ、ママの夫は三蔵さんですから、必然的に私くしのパパになります。」
当人が聞いたら 「なった覚えはねぇ。」 と、激しく否定するだろう。いや、今から
するだろう。そろそろ時刻は深夜枠に近いところだが、あそこなら、まだ起きているはず
だ。日付が変わるまでに渡せれば、それでいい。
「では、いってまいります。」
「ああ。」
「明日、午前中にはポッドは開きますからね。」
「ドクターに知らせてくれるように頼んである。」
「それでは、また明日。」
歌姫は、いそいそと外出して行った。それをソファから見送って、ティエリアも立ち上
がる。明日までに、できるところまで仕事を進めておこうと、作業場に戻った。
・・・・・喜んでくれるといいんだが・・・・・
作業をしながら、今日の買い物の成果を、親猫が喜んでくれるといい、と、そればかり
考えていた。
食事から帰ってきた寺の人外ご一行様は、そのまんま、さらに飲み足りなかったので、
飲み会をやっていた。悟空は、酒には付き合わないが、お菓子をパリパリとやって付き合
っている。
「飲んでるだけだと会話もねぇーから、マージャンでもやらね? 」
「そうですね。」
「確かに、会話はねぇーな。」
付き合いも異常に長いので、もはや語り合うような話題もないし、これといって話し合
うこともない。エロカッパの惚気とか、サルのツッコミなんてのも長くは続かない。道具
を取り出して、卓袱台の上を片付けて、そこに牌を広げる。じゃらじゃらとかき混ぜて、
各人が積み上げると、ジャンケンで親を決めた。
「やりぃー俺、親な。」
サイコロを悟空が振って、出た目のところから牌を取る。そこから時計回りに、同じ動
作が行われる。
「八戒、これ、うちの女房にも叩き込んでおけ。」
「マージャンですか? 」
「三人でもできるんだから、暇つぶしにはなる。」
四人でするのが基本だが、三人でもできないことはない。暇つぶしの材料としては、い
いかもしれないと、坊主は考えた。ゴールデンウィークに、共通するボードゲームがない
ことが判明したので、ひとつぐらい習得させておけば、何かと便利だ。
「当人がやりたがったら、教えますが、どうなんでしょうね。これは東洋の遊びだから、
ニールは役から覚えなきゃならないから面倒なんじゃないですか? 」
きっちり西洋人の寺の女房は、マージャンなんてものは知らないはずだ。
「それなら、ハイネにも教えれば四人揃うぜ? さんぞー。」
「それ、無理だぞ、サル。俺、前に誘ったら、やらねぇーって言った。」
たまにつるんでいる悟浄が、ハイネに教えてやろうか、と、誘ったが、ギャンブルには
興味がないと断られた。
「ママも興味ないのかなあ。」
「カードは、ほぼできるぞ、サル。」
ギャンブル関係も、いろいろと尋ねてみたが、カジノでやっているゲームについては、
一通り知識はあると言っていた。まあ、アングラ生活の長かった寺の女房は、そちら方面
は解るとのことだ。
「普段、そんなこと、話してるんですか? 三蔵。」
「たまたま、この間、共通の遊びがないか確認しただけだ。」
で、なかったので、将棋とチェスの異種格闘戦をやっていた。カードは、三蔵もある程
度できるが、ふたりでやって楽しいものでもない。
「パチンコデートすりゃいいんじゃね? 」
「もう行かんと言いやがった。」
「試したんかいっっ。」
ゴールデンウィークの夫夫水入らずは、そんなことで費やされていたらしい。まあ、一
人にしておけないので、坊主も考えて試していたが、結果は、その程度だった。どっちも
出身地域が違うから、そういう差異はある。
小一時間、じゃらじゃらと牌を掻き回して、勝負した。勝敗は五分五分だ。点棒のやり
とりはしているが、金は賭けていない。誰かが点棒を空にしたら、勝負はつくが、そこま
でやっていたら夜が明ける。
「もう半チャンで終わりましょうか。明日、学校でしょ? 悟空。」
「そうだなあ。あ、それ、ポン。」
「けっっ、持ってけ、ドロボー。」
かなり酒が入っているので、集中力が欠けてくると、有利なのは飲んでいない悟空だ。
次々と、相手の牌を奪って役を作る。
ガラガラと玄関の開く音がしたので、一同、ピタッと会話を止めた。この時間に、寺に
来るようなのは少ない。
「ハイネかな。」
「いや、今日はラボに待機だ。」
そして、そう言われると、悟空も廊下の足音に聞き耳を立てる。ここには、強盗にくる
バカはいないはずだ。軽い足音と、重い足音の組み合わせで廊下を近づいている。まあ、
人間なら、どんなのが来ようと、ここの面子は気にしない。
「夜分遅くに失礼いたします。」
現れたのは、歌姫様と、その護衛陣だ。ささっと廊下から居間に入ってきた。手には、
大きな花束がある。
「オーナー? 」
「どうかしたのか? ラクス。」
こんな時間にやってきたのは、初めてだ。何事かあったのか、と、一同が身構えたら、
坊主の前に歌姫様は歩み寄り、その花束を差し出した。
「ああ? 」
「ぎりぎりになりましたが、間に合ってよろしゅうございました。」
「何がだ? 」
作品名:こらぼでほすと 一撃9 作家名:篠義