君に届け!
「…率直に聞くぞ? ヤッたの、お前」
「はぁ…」
「合意か? それとも、」
「あ、合意、…す」
「なのに振ったのか!? お前そりゃ、いくらなんでも無責任だべ…」
わからない。本気で静雄の思考がわからない。
呟いてから、トムはあれ、と首を傾げた。こう見えて、酷く律儀で真面目な思考回路を持つ静雄が、未成年に手を出しておいて知らん顔、というのはいささかそぐわない。
「ちょっと整理するぞ? 例の彼氏がお前にコクって、勘違いして振っちまったのが2週間前なんだよな?」
「はい」
「んで、イタしたのは?」
「ひと月半くらい前っすかね」
「てことは、だ。してから告白されるまでの間にひと月あったっつーことだよな? その頃も、確か坊主はお前ん家に泊まってなかったっけか!?」
「泊まってました、けど…」
変すか、と首を傾げる静雄に、なんとか即答は避けた。静雄も変だが帝人も相当おかしいらしい、と彼に対する評価を少々改める。
友人だと公言していた相手と関係を持って、その相手からはなんの反応もなくて、なのにその後も普通に泊まるというのはどういう心境なんだろうと考えてみるが、さっぱり理解できない。彼については、よく一緒にいるという友人に聞いてみるしかないだろう。
自分の担当は、あくまでも静雄だ。
「話を戻すぞ? お前は坊主のことが好きで、恋人になれたらいいと思ってる。そこまではいいか?」
「けど、」
「けどじゃない。そうなんだよな!?」
「…はい」
「じゃあ、本人にちゃんとそう言え。今からでも遅くない、ちゃんと、自分の気持ちを伝えて来い」
向こうが自分の正直な気持ちをぶつけてくれたのなら、静雄もまた大人として、真正面から向き合ってやらねばフェアじゃない。
そんな風な言い方をすると、静雄がなぜかつらそうに顔を伏せた。
「けど、……振られたら、もう友人でもいれなくなるってことっすよね…」
「……………はぁ!?」
自分の聞いた言葉が理解できなくて、またまたトムは小さく首をひねった。なんというか、本当に天然だよなぁと、この時ばかりは少々泣きたくなった。既に今日1日で一生分の驚愕を使い果たした気がする。
「またどこ向かって、…いや、なに言いだしたんだ? そんなことあるわけないべ」
「…そんな、言い切られても…」
「とにかく、ないったらない。絶対ない。なんなら俺の生命賭けたっていいぞ」
「………」
本心だったのでめいっぱい力説すれば、静雄の目が迷うようにトムに向けられる。
「だいたい、今だって避けられてんだろーが。このままグダグダ逃げられて自然消滅とか、彼氏の隣にお前さんの居場所がなくなっちまうとか、そういうのは嫌なんだろ?」
「……はい」
「じゃあ、言っちまえ。ちゃんと、「恋人として付き合いたい」って言うんだぞ? 「好きだ」って言うだけじゃ、同じことになっちまうからな」
静雄をけしかけつつ、トムはそこまでしてもくっつかなかったら、これはもう俺と親友くんとやらで無理やりくっつけるしかねぇなと内心溜め息を吐いた。いい年した他人の恋愛になんでここまで世話やかにゃならんのよと思いもするが、後輩が幸せであってくれれば、それはそれである意味自分の幸せにも直結するところは確かにある。
「トムさんがそこまで言ってくれるんなら、俺、信じてみます…」
「おう、頑張れ」
掛け値なしの本心からそう言って、トムはやっと並んだ寿司に手を伸ばした。