こらぼでほすと 休暇1
親猫のところへ降りてこられるのも、それまでのことだな、と、ハイネは確認する。機
体が完成すれば、組織は再始動する。そうなれば、刹那も世界放浪の旅は終えて、組織へ
合流するだろう。
「そうなるだろうな。予定は未定だが、概ねの流れは、そういうことだ。」
ティエリアだって、それは考えていた。組織が再始動することになれば、実働部隊の責
任者に収まっている紫子猫は、さすがに休暇を取るのは難しいし、フェルトも同様だ。冬
に、少しだけ降下するつもりはしているが、それもどうなるかわからない。これで、親猫
の顔を拝むのも最後かもしれないとは覚悟している。
「じゃあ、さっさと終わらせて、ママニャンのとこで、のんびりしてこい。」
「そのつもりだ。」
「だが、ティエリア、再始動についての情報は・・・」
「わかっている、アスラン。それは、ニールには教えない。」
なるべく、再始動の情報は親猫には伝わらないようにしておきたい。きっと、子猫たち
の心配で、具合が悪くなるからだ。『吉祥富貴』のMS組が動き出せば、バレるだろうが
、なるべく知られるのは遅らせるつもりもしている。
夕方に、寺のほうへ顔を出したら、沙・猪家夫夫も揃っていた。夕食の用意もされてい
る。ふたつの鍋が用意されていて、中身は対照的な白と赤のスープが、ぐらぐらとしてい
る状態だ。
「スチームボートといって、特区より少し南の料理になります。ニールは、こっちの白湯
スープで食べてください。そっちのは、辛口スープです。刺激が足りなければ、ラー油と
一味がありますので、手元で調整してください。」
トダカとアマギも、この料理は知っているらしく、はいはい、と、赤いスープを取り皿
に少しとって、そこに一味を足している。
「ママは、赤いのはダメ。こっちだけだぜ? トダカさん、ビールでいい? 」
「ああ、ビールでいいよ。帰りに運転しなくちゃだから。」
「トダカさん、運転なら私がやりますから、どうぞ、冷酒で。」
「悟浄、具材を適当に投げ入れてください。」
「春雨は各自でやってくれ。それ以外は放り込むぞ。」
鍋に、ざばざばと野菜、魚介類、豚肉、鳥肉が投げ込まれる。これが煮えたら、取り出
して薬味を足したスープで食べるという簡単な料理だ。これなら準備も簡単で、おいしく
食べられる。
で、まあ、ニールとしては、三蔵の横に座り、ビールなんかを注いでいたりする。いつ
もは、準備して鍋奉行もやらなければならないが、本日の仕切りは八戒だから、のんびり
としたものだ。
「いつ、出発ですか。」
「来週の末だ。痩せたか? 」
「ああ、まあ。しばらく食事摂れなかったんで。・・・・三日ほどトダカさんとこで過ご
して、こちらに戻ります。」
「ぎりぎりでいいぞ。別に、おまえの顔なんぞ見なくても困らねぇーからな。紫子猫は、
どーした? 」
「キラとラボで作業しています。」
寺の女房が、ビールを注ぐと、寺の亭主が、ぐいっと飲み干す。入梅で寝込んで三週間
ばかり留守していたので、話すこともいろいろとある。
「俺は、花なんぞ貰っても有難くもなんともないんで、金輪際やめろ。」
「はいはい。飲み物かタバコにします。荷物は? 」
「まだだ。」
「じゃあ、梱包して送らないと。えーっと、滞在予定は? 」
「二週間だ。正装を二着入れとけ。それと、たばこと焼酎。」
「はいはい。カップめんとかも? 」
「各種バラバラがいい。」
「うーん、残ってるのかな。適当に用意して詰めますよ。」
「赤いほうのやつを取れ。」
鍋から取ってくれ、と、亭主が命じれば、はいはい、と、女房が適当に取り分けてくれ
る。それから、「おまえも取らないか。」 と、命じられて、自分の分は白いスープのほ
うから取り分ける。
「あんたは、白いスープのほうはいらないんですか? 」
「ああ、〆でラーメンは食うぞ。」
「俺、こういうのは初めてですよ。好きなんですか? 」
「ありゃ食うってぐらいだ。焼酎には、水炊きのほうが合うからな。くっちゃべってない
で、ちっとは食え。」
「はいはい。」
で、これで、どっちもノンケで、恋愛感情皆無だっていうんだから、とっても驚きなの
だが、気にしてはいけない。てか、アマギあたりは、本当に夫夫なんだなあーと微笑まし
そうにビールを口にしている。
「さんぞー、すげぇー機嫌悪かったんだぜ? アマギさん。ママがいないと、全部、自分
でやらなきゃだろ? だから、雨を降らせてる梅雨前線を破壊してこいとか、キラに言う
んだ。」
悟空は、どっちの鍋のものも取って、ばくばくと食べながら笑っている。梅雨前線がな
くなれば、梅雨は明ける。そして、大明神様のMSは、それを霧散させるパワーを持って
いるストライクフリーダムだから、可能といえば可能だったりするから性質が悪い。そん
なことをしたら、特区付近の天候が狂ってしまうので、他のものが止めた。至れり尽くせ
りの世話をしているニールも悪いのだが、どっちも、それに気付かない。
「三蔵には過ぎた女房ですよね。」
「てか、ママニャンが甲斐甲斐しすぎるんじゃね? だいたい、なんで、鍋のもんまで取
ってやるんだか。」
「世話好きだからねー、うちの娘さん。」
いちゃこら寺の夫夫を観察しつつ、他のものも箸を進める。暑い盛りに、この汗が拭き
出るメニューというのは、なかなかいいものだ。
「悟空、夏休みの宿題ってあるんですか? 」
「課題は、何個かある。」
「それ、持っていって、あちらでやってきたほうがいいですよ。来月、フェルトちゃんが
降りてきたら、またお祭り騒ぎでしょうから。」
「うん、そうだな。それも送ってもらおー。なーなー、ママ。俺の荷物詰める時さー、声
かけて。宿題も持っていくから。」
もちろん、悟空も、至れり尽くせりの世話をされちゃってるから、こういうことになる
。詰めてもらう気満々だ。
「わかった。それじゃあ、悟空。時間のある時に、カップめんを買ってきてくれないか?
荷物に入れるから。」
「おっけー。」
本山の食事というのは、基本的に精進料理なので、育ち盛り食べ盛りの悟空には物足り
ない。ついでに、普段、精進料理なんてクソ食らえな坊主も、途中で飽きてしまう。てな
ことになるから、夜食というか世俗なジャンクフードが必要になる。なんせ、本山の寺は
、山の中だから街までは時間がかかる。
「足りなくなったら連絡しろよ? 」
「おうっっ。」
そして、宅急便というのは、世界のどこへでも届けてくれるから追加発送もできる。た
まに、酒が切れると、坊主から追加の連絡も入る。
「甘やかしすぎですよ? ニール。」
「てか、ママニャン。あんまり張り切りすぎんなよ? ティエニャンと留守番もするんだ
からな。」
坊主やサルの世話だけじゃないんだから、と、沙・猪家夫夫が笑いながら、注意する。
「わかってますよ。それより、ティエリアと、どっか出かけようと思うんですが、いいと
ころはないですか? 」
作品名:こらぼでほすと 休暇1 作家名:篠義