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つわものどもが…■05

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「ンな謝られる程の事じゃねぇよ。光が当たると眩しいし痛いしで隠してるだけなんだからよ」
元親が困ったように眉根を寄せて笑った。
「そっか…Ah,俺は…」
聞いておきながら此方が言わないのはfairじゃないと思って告げたのだが、
「待った!」
慌てたような声に遮られてしまった。
「…元親?」
「無理して言う事ぁねえよ、政宗」
デカい図体で大雑把なところがあるかと思えば、細やかな気遣いを見せる。そんな元親だから、だろうか。俺は何を気負うでもなくありのままを伝えようと思った。
「No problem,別にナンとも思ってない。いや、コレの所為で母さんに心労かけたのは申し訳ないとは思うけど…」
気にしていない、とは言いつつも、俺はそこを隠すように前髪を長くしている。前髪で隠した右目は、学校に来る時には更に医療用の肌色のアイパッチで覆っている。そうすると意外と目立たないからだ。こうなってしまった事に悔しさはあったとしても、負い目だとか羞恥だとかいう気持ちはない。だが集団心理とでもいうのか、見た目が違うというのは周囲に色々と思わぬ影響を与える事があると、幼い頃に学習した。それ以来、多数の人と接する場所ではなるべく目立たないようにしている。
「コイツは病気で摘出しちまったんだ…で、見てくれが悪くなるからって形ばかりの義眼が入ってる。だがまぁ、アイパッチで隠してちゃ義眼も意味ないけどな」
右側を覆う前髪を自分の手で少し持ち上げて見せる。と、元親の手がぬっと伸びてきた。髪の下、肌色で覆われたそこを、肉厚の指先が遠慮がちに這う。傷むか?と聞かれたので、今はもう平気だと答えた。元親は吐息とともに、
「そっか…」
と小さく溢して、隠された瞼の、目頭と眦の間をなんども指でなぞっている。それは、母さんがする硝子細工に触れるような緊張した感じではなく、どちらかと言えば父さんがする労わるような護るような柔らかな感じに似ていた。
「俺も、前世の罰とやらかな」
どんな因果があったのかは分からないが、ぼそりと言うと、
「それは違う!そんな訳ないっ」
途端に険しい眼差しになった元親に否定された。急に大きな声を出すもんだから、周囲の目が此方を注視する。
「な、なんだよ…そんなムキになんなよ。アンタが最初に言ったんだぜ?」
「あ……そ、そうか、えと、じゃあ前言撤回。悪ぃ」
「変なヤツだな」
気分を害した訳ではないが驚かされたのが癪に障って批難めいた口調で言ってやると、悪ぃ、とひとつきりの目をうろうろさせて再び詫びてきた。その様子があんまりにも可愛くて(年上の、しかもガタイのいい男に不釣り合いな言葉かもしれないが)思わず笑ってしまった。
しばらく互いに黙ったままだったが、その間も元親はアイパッチの上から瞼を撫でていた。と、
「コレはコレで…良かったのかもな」
「What do you mean?」
「んー?ひとつっきりでもそんな綺麗で強烈な眼ぇしてんのに、ふたつ揃ってたら堪ンねぇだろ」
元親が柔らかな笑みを浮かべて言ったが、直ぐにその意味が分からなくて。
何秒か、じっと元親を見詰めたまま考えてしまった。
「ア…ンタ、よく真顔でそんな恥ずかしい台詞言えるなっっ」
「恥ずかしいかぁ?」
きょとん、といった風に小首を傾げて見せる元親。
Hang it!変に意識したっぽくて俺が馬鹿みたいじゃないか。
「……忘れてくれ」
「いいけどよ……、それより、なぁ、他にも教えてくれよ。アンタの事、もっと知りたいンだよ、政宗」
それまで優しく右の瞼をなぞっていた手が離れ、どしん、とそれが頭に乗せられた。あ、と思ったらもう髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜられていて。
「な…ンだよ、そのナンパみてぇな…っ」
ぐらぐらと頭が揺れる。
「だからァ、ナンパじゃねぇっての。本心だぜ?」
「余計に性質悪ぃ!!」
「なになに?惚れちゃった?キュンときちゃった?」
「Shut up!!!」
何時までも頭に乗っけられていた手を払い落してやった。
「ンだよ、怒ったか?でもアンタの事をもっと知りたいってのはマジだぜ?なぁ、隠さず話せよ…政宗」
「ア、ンタが面白がるような事ぁ何も無ぇよ!寧ろアンタの方があるんじゃないか?聞かせろよ、」
元親といると必ず一回は髪をぐしゃぐしゃにされてる気がする。
悪戯っ子のような笑みを満面に浮かべる元親を恨みがましく睨みつけ、あからさまに嘆息して見せながら手櫛で髪を整えた。対面する席で、肘をついた手に顔を乗せた元親が「んー」と唸る。何を話せばいいんだろうなぁ、と溢すので、何でも、と言ってみた。
本当は、元親…だけでなく元就さんにも言える事だが、俺の何に興味を持ったのかを知りたかった。
自分で言うのもナンだが、男勝りで可愛げなんてどこにもない捻くれ者の俺に、何でこの人達は積極的に関わろうとするのだろう。何でこの人達は、俺を見て物悲しそうに微笑んだりするのだろう。
それが、知りたかった。
「じゃあ…よぉ、休学して海外に行ってた時の話なんて、どうだ?」
「That’s it!聞かせてくれよ」
食う気のなくなった弁当を仕舞おうとすると、元親に食べながら聞けと言われてしまった。小さく首肯して閉じかけていた蓋をテーブルに置いた俺を見止めて、元親はよしよしと頷いた。
それから元親は、休学していた間の事を話してくれた。
二年に進級して直ぐに急に思い立って休学届を出した事、手っ取り早く資金を集めようと体力勝負の日雇い労働をした事(それでこんないい体格なんだろうか?)、それなりに資金が出来たところでパスポートとエアチケットを取ってバックパッカーのような旅に出た事、その旅先でスリにあった事、アジアからヨーロッパ方面まで行った事、手持ちが心許なくなったら現地でバイトをした事、そして帰国の費用がなくなって元就さんに助けを求めた事。
「行ったのは一人だけどよ、旅先で同じように一人旅をしてる日本人と知り合ったり現地に住んでる人と仲良くなったり、なかなか面白かったぜ」
いい経験だったのだろう事は元親の表情を見ていれば分かる。
「まぁインドで知り合ったヤツがちょっとヤバい薬キメちまった時には肝が冷えたけどな」
さらりと披露されるそんな体験。誰にでも出来るものではない。
「Great、なぁバイトってどんな事やったんだ?言葉、通じんのか?」
「片言の英語が少し…けどな、案外どうにでもなるもんなんだよ」
いやいや、それはアンタだからだろう。
「ちゃんとしたバイトは就労ビザとか色々ややこしいから、俺がやったのはバイトって言うより子供が小遣いもらって家の商売手伝うみたいな、そんな程度だけどな」
それだって凄い。
聞けば、商店の荷物の運搬やら飲食店の裏方やらをしていたらしい。
「最後に行ったイタリアじゃあ、ピザ職人と仲良くなってよ。ピザ生地の広げ方、知ってっか?」
言って、元親は右手の人差し指を上に向けて立てると、くるくる回してみせた。
「こぅ…台で円形に伸ばしたのを、指でくるくるやりながら広げられンぜ、俺」
「Are you sure?」
「応よ!窯に入れて高温で短時間焼いたピザは旨ぇぞ」
作品名:つわものどもが…■05 作家名:久我直樹