いたいけな投手
約束。それは三橋を追い詰めていく巧妙な罠だ。
マウンドの上ではまだしもだが、こと恋愛面における三橋は他者に依存がちだ。それを直すための訓練として、阿部はあることを思いつき、実行している。
方法は簡単だ。約束と称して、適当な無理難題を押しつける。阿部との約束が守れた
ときには、べったべたに甘やかす。守れなかったときは、どうして出来なかったのか一緒に考えつつ説教する。自分にもやれば出来るんだという達成感を与えることで、奪われた
自信を少しずつ取り戻していってやる。
聞けば、三橋の中学校時代の野球部にはお互い下の名前で呼び合うほど仲良しだった幼なじみがいたらしい。どうもその幼なじみからもイジメに関する直接的な助けを得られ
なかったようで、三橋はとにかく他者を信じることに臆病になってしまった。傷つくことも、傷つけられることも、傷つけてしまうことも、他者と関わって起こり得るだろうすべてのことから逃げ続けている。
悔しい。
三橋廉をそういうふうに変えた奴らが心底憎い。
好きな人に信じてもらえないのは苦しい。
だから、三橋をそういうふうに作り替えてしまった奴らを、死んでも許さない。