こらぼでほすと 休暇2
ひとりなら、ここまで手間はかけないが、たまには私の手料理を披露する、と、トダカ
は材料も買ってきた。本日は、春雨とモヤシのスープと蒸し鳥というあっさりメニューだ
そうだ。
「あと、ハマグリの蒸し煮。ニール、アイシャさんがいるから、もう一品、作ってくれる
か? 」
「じゃあ、炒め物でもしましょうか。ハムとモヤシとにんにくの芽あたりで、どうです?
」
「それぐらいでいいな。」
そこで、ふと、アイシャの手料理で習いたいものがあることを思い出した。刹那の故郷
の味だ。さすがに、アイルランド人には中東の料理なんてものは食べたことも、滅多にな
い。以前、アイシャがご馳走してくれたら、刹那が懐かしいと言っていたのだ。
「なあ、アイシャさん。いくつか、刹那が好きそうなの教えてくれないか。俺、あっちの
料理は、よくわからないんだ。」
「イイワヨ、じゃあ、昼はニールが食べさせてネ。」
「うちの故郷の料理とかがいい? 」
「それも味見シタイわ。」
「じゃあ、それで。」
これで、アイシャが、ここに滞在する理由は出来た。これなら、お互い、いい暇つぶし
になるだろう。明日は、トダカーズラブの面々が大挙するから、料理のほうも、そちらが
やる。
「ティエリアは、ナニが好き? 」
「好物ってないんですが、魚の形が原型で残ってるのは苦手みたいです。あと、ねばねば
したものもダメらしい。今、あいつのマイブームはあんみつです。」
「オッケー。それ、明後日にでも買いにイキマショウ、ニール。アタシの料理は材料が必
要ナノ。」
「香辛料が違うんでしたね。」
ちまちまとモヤシのヒゲは駆逐された。これは、調理直前まで水につけておく。ハマグ
リは、すでに冷蔵庫で塩抜きされている。そろそろ、洗濯物を取り込まないと、と、ニー
ルが庭へ出て行った。それを見送って、トダカがアイシャに軽く頭下げた。
「うちの娘さんのお守りを頼むよ、アイシャさん。」
「ウケタマワリました。うふふふ・・・・こういうのも楽しい。」
アイシャにしても、一緒に出歩ける友達は少ないから、これはこれで楽しい。夫が妬か
ないし、見目もいいし、出歩くには、いい相手だ。
なんか、中華が食いたいらしいです、しのよし。小龍包とか食いたいな。
翌日、朝からアマギを筆頭にトダカーズラブの面々が十数名、寺へ現れた。ボランティ
ア精神に溢れているというか、トダカへの愛に溢れているというか、トダカーズラブの面
々というのは、こういう時に大集合になる。
「境内と本堂の掃除をさせてもらう。昼と夜は、境内でバーベキューにするから、何も準
備しなくてよろしい。」
と、アマギは言って、器材一式を運び込んできた。こんなに大挙すると思っていなかっ
た寺の女房は、あちゃーと額に手をやる。数人だろうと思って、麦茶や冷たい飲み物を準
備していたからだ。
「少しですけど、飲み物はあります、アマギさん。」
「ああ、それもいただくが、タライを貸してくれないか? 外に飲み物を冷やすよ。」
大人数なので、そうでもしないと冷たいものは用意できない。大きなタライに板氷を投
げ込んで、そこにビールやらペットボトルのお茶やジュースは冷やしてしまう。すごいわ
ねーとアイシャは、その様子に手を叩いて感心している。アマギも 『吉祥富貴』とのつ
きあいが長いから、虎の奥方とは顔見知りだ。
「ニールのお守りですか? アイシャさん。」
「ええ、ナツヤスミなの。」
「お疲れ様です。」
「アタシも手伝うワ。」
「それなら、野菜を頼んでいいですか? 」
バーベキューの食材も運ばれている。それらを切る作業もあるから、アマギは、そちら
を頼んだ。肉やら野菜は、丸ままの塊りだから切り分ける仕事はある。それも、二十名近
い人間の胃袋を満たす量となると、相当なことになっていた。
「オーケー。ニールと、そちらはヤルわ。」
「じゃあ、私は本堂のほうをやるとしよう。アマギ、境内のほうを頼む。」
トダカは、掃除のほうをやるつもりで、ジャージの上下という格好だ。最近、運動不足
だから、と、張り切っている。
「トダカさん、重いのは持ち上げないでくださいよ? 」
「ははは・・・わかってるよ、ニール。年寄りは監督という仕事があるんだ。」
さあ始めよう、と、トダカの号令で一斉に動き出す。トダカーズラブの面々は現役軍人
ばかりだから、熱中症の心配はない。すでに、冷えたビールをぐびぐびと飲みながら境内
の草むしりが始まっている。もうひとつタライを用意して、そこには保冷剤を投げ入れて
、こちらにも寺のビールを投げ入れる。後は、麦茶を薬缶に用意して、傍にはコップも用
意した。
「塩分が必要なんだっけ? アイシャさん。」
「そうね、でも、あのヒトたちは慣れてるから大丈夫。」
さあ、こちらも準備しましょう、と、箱で置かれている野菜を手にして、アイシャも動
き出した。アイシャも、こういうのは慣れているから、やる手順を説明してニールに指示
を出す。
本山へ到着した坊主とサルのご一行は、初日から上司の来訪を受けた。いつもは、途中
で、ちょこまかとサルを構いに来るのだが、初日からは珍しい。ただし、坊主には形式的
な挨拶をしただけで、サルにオヤツを与えていたりする。坊主のほうは、溜まりに溜まっ
た書類やら、他の上司への報告やらで、そんな暇はない。
「元気でしたか? 悟空。」
「おう、天蓬、捲簾、久しぶりっっ。」
「あの荷物、誰が送ってくれてるんだ? 悟空。」
きっちりと宅配便が届いている。書き文字は、坊主でもサルでもないのは確認済みだ。
「俺、ママができたんだよ。ママがさ、宅配したら楽だって教えてくれて、荷造りもして
くれるんだ。あ、天蓬、課題があんだけど手伝ってくれ。」
「「 ママ? 」」
悟空の爆弾発言に、ふたりして揃えた大声だ。
「ちょっと待ってください。ママって、三蔵が嫁を貰ったんですか? 」
「おい、この間、八戒は何も言ってなかったぞ? 」
「あ、そうだ。天蓬、茅台酒の古酒を選んでくれ。八戒の土産にすっから。それと、特区
に来るのは秋以降だってさ。その時に、うちのママの身体にいい薬とか、刹那の厄災よけ
の護符、土産にしてくれって。」
「それ、八戒からですね? 悟空。」
「おう、なあ、金蝉は元気にしてる? 捲簾。」
悟空の言うことで、ぴんときた天蓬のほうは、ふむふむと頷く。情報欲しけりゃブツ寄
越せ、だと理解した。そういうことなら、いい茅台酒を用意して連絡すれば判明するだろ
う。
「元気にしてるぜ。おまえが帰ってくるから、ご機嫌で仕事してる。これから会いに行く
か? 」
「そうだな。なんか美味いもん奢ってもらおう。」
「くくくく・・・おうおう、せいぜい、奢ってもらえ。」
元保護者の金蝉は、悟空が来るので、眉間の皺を少なくして執務に勤しんでいる。なん
だかんだといって、金蝉は、今でも悟空の保護者気分だから、里帰りしてくるのは嬉しい
作品名:こらぼでほすと 休暇2 作家名:篠義