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東から来ました

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 朝の陽光が照らす窓際に、線の細い男が立って影となっている。身なりは品の良いスーツで、一見すれば大手小売店の経理と言ったところだが、見た目で人を判断するとすぐに死ぬのがエルデンの原則である。
「お呼びになりましたか」
「お呼びになりましたよ、血まみれ(ブラッデイ)クリスくん」
 ククッ、とロウは笑みを深めた。彼はいつもそうやってクリスをけなして楽しむ。
「その呼び方は止めていただけませんか。まるで名のある戦士のようです」
「いやいやぁ、一端の戦士より名誉ある称号ですよぉ? 私の遊びで死ななかった人なんて、ほんと君くらいなもんですよぉ」
 ロウは窓際を離れてクリスに近づいてくる。
 クリスは下がりたくなる足を懸命に抑えた。恐怖から目を反らして思考を捨てるのだ。ロウの目ではなく鼻を見るのだ。薄氷の上にいることを忘れるのだ。
 ロウは隣まで来るとクリスの肩に腕をまわした。クリスは体が震えだす前に体をロウに預けた。恐怖さえ忘れてしまえば、爬虫類の温かみでも安堵できる。
「ロウさんは俺を買い被っています。俺は単に意識があったというだけで……」
「クヒッ」
 ロウはクリスの耳元でひと際高くのど奥で笑う。
「それどころか運も度胸もありますよぉ。四肢の腕はへし折ったし、眼球の片側はほじくり出しました。内臓だって損壊していました。それがどうです! ちょっと高めの医術士に治療してもらったとは言え、後遺症が全くない! あぁ、クリス君、君って奴はそれだけで僕の宝なんですよ。僕が壊せなかった唯一の人です!」
 このやり取りも何度目だろう。
 ロウはクリスの肩を抱いたまま歩きだした。部屋を出て受付へと続く通路を歩く。他の従業員の視線は気にならない。そんなものは無いからだ。視線を与えた者の末路は皆知っている。
「どういった御用件なんですか?」
 受付に向かうということは、どうやら仕入れた女の紹介ではないらしい。
「実は、ちょっとゴタゴタがありましてね」
「それは……」
 珍しい、と言いかけてクリスは口を閉じた。その言葉がロウの気に召すかどうか、いまいち自信がなかった。だがそれは杞憂だった。
「ボクとしても、これは失態だと恥じ入っているんですよ、クリスくん」
 いや、とロウは言葉を続けた。
「相手が酔狂過ぎますね。いるんですよ、時々何かを勘違いした上に状況を見定められない人ってのがね」
 ロウの口調からクリスはいくつもの出来事に思い至ることができる。ロウから女房を、姉を、妹を、恋人を、友人を取り戻しに来た男達のこと。または彼らに雇われた人々のこと。
「ヒーローが来たんですか」
「フヒッ」
 ロウは背中を震わせ始めた。
「クリスくん、君、ほんと、最高ですっ。そう、ヒーローが来ました! これからそのヒーローとお話をしますので、クリスくんには同席していただきます」
 ロウはクリスに体重を預けながらも、しっかりとした足取りで通路を進んだ。


 ヒーローはクリスと同い年くらいの青年だった。
 顔は完全に東洋系だ。顔の凹凸は浅く目が細い。背は低いが貧弱な印象を抱きにくく、武器の扱いに慣れていると身取ることができる。今は丸腰だが、東洋系ということは体術に秀でている可能性もあるので油断ができない。
「おはようございます。『ホール・ダイヴ』経営者のロウ・ハバナイです。本日はお越しいただき迷惑ですが、一応歓迎しておきます」
 青年はドアのすぐ前に直立している。片手には重々しい袋をぶら下げ、ロウに席を進められても座ろうとはしなかった。ロウをおだてる気は全く無いらしい。
「さて、御用件をうかがいましょうか」
「では、失礼いたしまして」
 青年が袋の紐をほどく。そしてそこから一枚の通貨を取り出し、こちらに見せた。
「一万ダラー金貨です。袋の中に五十枚ほどあります。要件は貴店の商品の買い取りです」
「ハァン!」
 ロウは鼻で笑った。クリスも、中身全てが金貨だと信じるほどお人好しではなかった。
「商品の買い取りなら、事前に見繕っておいてもらわないと時間の無駄で迷惑です。それに顔も知らない女を買い取るのに言葉を飾らなくていいですよ。馬鹿正直に言ってくださいよ」
 そして一つ一つ、粘りつくように付け加えた。
「救いに、きたとね」

作品名:東から来ました 作家名:小豆龍