こらぼでほすと 休暇3
を絞り込む相談をしたり、と、なかなかゆっくり寺に居座れない状態だから、疲れて、何
もしたくなくなったら寺へ逃げ込もうと、着替えだけ置いておくことにした。
「まあ、いいけどさ。トダカさんのとこにも泊まりに行けよ? 」
「わかってる。俺もオロシ蕎麦おねがいしまーす。」
はいよ、と、ニールが立ち上がると、レイは荷物を置いてついていく。お手伝いは、こ
こでの決まり事だ。働かざるもの食うべからずだから、何かしら働かないで食べていいの
は坊主だけというルールだ。シンのほうは、庭に目を遣って、あーと、そちらへ降りてい
く。裏庭の家庭菜園が、水不足なのかへたっている。きゅうりは無事に生った。毎日のよ
うに、でかいのが摂れる。枝豆は、そろそろ摂れそうな感じだから、悟空が戻ったら、と
、ニールは考えている。
「あの枝豆、僕も食べたい。」
「もうちょっとだって、トダカさんが言ってたから収穫したら茹でるよ、キラ。」
台所で、蕎麦を茹でているニールは、キラの叫びに。こちらも大声で返す。せっかくだ
から、ティエリアにも食べさせてやろうと考えていたら、当人が食器を下げてきた。
「あれは、家庭菜園というものですか? ニール。」
「ああ、そういうもの。適当に植えたら生るものばかりだけど、新鮮だと、一味違うんだ
ぜ、ティエリア。」
「寺の財政状態は悪いのですか? 」
「いや、違う。俺の暇つぶし。」
「もし、ニールが苦労しているなら、俺にも少しは手助けをさせて欲しい。」
「いや、違うから。俺自身は困ってないし、三蔵さんのほうも、そんなことはないって言
ってるよ。」
まあ、着の身着のままで、『吉祥富貴』に居着いたから、手持ちの財産なんてものは、
ほとんどないが、適当に店の手伝いをしているからバイト代は貰っている。それに、衣服
は、歌姫がかなり用意してくれたから買うこともないし、寺に居座ってからは、坊主のカ
ードで家計の買い物はしているから、ニールのカード残高は、ほとんど動かない。刹那の
衣服とかマイスター組とのデート費用ぐらいが、ニールの出費なので些細なものだ。
茹で上がった蕎麦をザルに取りあげると、冷水でさっと〆て、そこに山菜と大根オロシ
を乗せる。もうひとつ、アイシャのタレを使うのも用意すると、準備完了だ。それらは、
レイが運んで、水遣りをしているシンに声をかける。
「これ、何? 新作? 」
戻って来たシンは、アイシャのほうの蕎麦に首を傾げた。オーヴ出身のシンにとっては
、蕎麦に香辛料たっぷりのタレなんてのは初めてだ。
「アイシャさんの作。かなり美味しいよ、シン。」
「へぇー、新鮮だなあ。」
「ピリッとくるから。」
「おう。りょーかいっす、キラさん。」
ずるっと啜ると、独特の匂いと辛味が来るが、意外にもマッチしていて、シンは、勢い
込んで、啜りはじめる。美味しいというのが、よくわかる態度だ。
「これは、韓流風? 」
「いいえ、レイ。中東風。」
「これも、夏には合いますね、アイシャさん。」
レイも気に入ったのか、ずるずると啜っている。キラは、勝手に冷蔵庫からアイスバー
を取ってきて、はむっとかじりついている。
「はあーおうちに帰ったって気がするー。」
「おまえの家じゃねぇーよ、キラ。」
「でも、ママの顔を見ながら、おやつ食べると和むんだよねー。ああ、ティエリア、バッ
クアップデータが出来たら、プールに行かない? たまには、僕らとも遊んでよ。」
「ニールも行けるところか? キラ。」
「うん、ホテルの屋内プールなら大丈夫。暑さも調整してあるからね。」
「なら付き合おう。」
「じゃあ、そういうことで。アスラン、手配よろしくね? 」
「了解。貸し切りの予約をしておくよ。」
ティエリアにもゆっくりした休暇を用意したい、と、キラは言っていたから、アスラン
も、すぐに頷いた。今度は、いつ来られるか、わからないから、少しゆっくり親猫と過ご
して欲しいと思っている。
「このバカものっっ。」
寺の坊主愛用のハリセンで、ハイネが寺の女房を叩いたら、カウンターアタックで、テ
ィエリアの蹴りとレイの手刀を脳天に見舞われて転がった。
「こらっっ、乱暴はよせっっ。」
転がったハイネを庇って、寺の女房が、ティエリアとレイを嗜めるが、どっちも聞いち
ゃいない。
「俺のおかんに暴力を振るうのは、万死に値するぞ、ハイネ。」
「まったくだ。もう一度、奇跡の生還者に名を連ねたいなら、俺が相手をする。」
「いや、ハリセンだから痛くないし・・・・おまえさんたちのは本気だから痛いだろ?
やめろ。」
大丈夫かー? と、ニールが覗きこんだら、ハイネのほうは手をひらひらさせて起き上
がった。これぐらいでは、痛いうちには入らない。
「悪かった悪かった。・・・・けど、それ、全部は却下な? ママニャン。時間配分から
考えたって、三時間以上かかるだろ? 」
「でも、せっかくなら、見られるだけ見せてやったほうがさ。」
「で、途中で日射病か熱射病で、ママニャンの一夜干しのできあがりってーのは、洒落に
ならん。」
「それなら、どこか冷房設備のあるところで、ママは待っていてください。俺とシンで、
ティエリアを案内してきますから。」
「えー、俺も見たいぞ、レイ。」
「ですから、それは季節を変えて、または日を改めて、ということにしてださい。」
動物園デートに、アッシーは必要だろう、と、ハイネが言いだして、シンとレイも行き
たいと名乗りを上げた。そういうことなら、みんなで、と、親猫は頷いたのだが、予定を
話し合っている段階で、この騒ぎだ。ここのところの連日の三十五度突破の気温から鑑み
れば、動物園一周なんて、ニールには無理な話だ。
「最後に、トラムに乗って一周させてやるから、それで手を打て。ママニャン。」
ニールは適当な休憩施設で休んで、シン、レイ、ティエリアで動物園を探索するという
方向で、ハイネは話を纏めようとしているのだが、ニールも、せっかくだから見たいとか
言いだすので、収拾がつかない。
「ニール、俺も、あなたと一緒に楽しみたいが、いかんせん、気温が高すぎる。観察棟に
冷房があるところだけにしてください。」
ティエリアも、そりゃ無理だ、と、説得する。一緒に楽しみたいのは山々だが、昼間の
外出は堪えるからだ。
「あー、俺、ティエリアとふれあい広場に行きたいんだ。そこと、パンダ舎は外せないぜ
。」
「うーん、そういうことなら、パンダ舎行って・・・・・おい、ここって、端っこじゃね
ぇーか。歩くだけでも大変だぞ。」
「ハイネ、トラムで、ママと先行して、ここの休憩所で待っててくれ。俺たちは、適当に
観察しながら徒歩で行く。」
冷房マークのある施設が、ふれあい広場の近くにある。トラムなら、ほとんど歩くこと
はない。駆け足で、レイたちが動物を眺めつつ追いかければいい。そこには、フードコー
トもあるから、食事して、ふれあい広場で遊んで、また、ニールはエントランスへ引き返
作品名:こらぼでほすと 休暇3 作家名:篠義