こらぼでほすと 休暇3
せば問題はない、と、レイが説明する。冷房施設のある観察棟がついている動物というの
は、やはり希少価値のものが多く、エントランス付近に集中している。
「ま、そんなとこだよな。土産モンでも冷やかしてるとするか? ママニャン。」
「うーん、せっかくなのになあ。」
「そう焦らなくてもいいですよ? ニール。俺は、また降りてくるつもりですし、涼しく
なったら刹那が来るでしょう。次は、刹那と行けば良い。」
「いや、おまえさんに見せてやりたかったんだよ。実物なんて、目にしてないからさ。」
シンやレイも、ほとんど、動物園とは縁がなかった。シンは、小さい頃に行ったことが
あるのだが、あんまり記憶に残っていない。レイにいたっては皆無だと言う。そうなると
、全部を制覇させたくなるのが、親猫の性格だ。
「だから、あなたが、休憩している間に、適当に見て来ます。それとは別に、俺は水族館
にも行きたいので、ここで体力を使い果たさないでください。」
ダウンされたら、ティエリアも困るので、そこで体力を使い果たさないように、別の日
のデートも提唱した。それがあるから、こっちは少し抑え目にしてもらおうという作戦だ
。
「シャチのショーのあるところに案内するよ、ティエリア。フェルトと行ったところじゃ
ないんだけど、そっちも楽しいらしいんだ。」
子猫たちを案内してやれるところは、他にもないのか、と、いろいろと携帯端末で調べ
たら、特区には、たくさんの水族館や植物園があることがわかった。遊園地は、近くにひ
とつしかないのだが、水族館は三つばかりある。フェルトを案内したのは巨大水槽が売り
のところだったが、新たにリニューアルして水生生物のショーが売りのところがある。今
度は、そこへ、と、ニールは考えていた。水族館なら、空調は効いているから問題はない
。
「ありがとう、ニール。それは楽しみだ。だから、そこへ行くにはダウンしてもらっては
困るので、動物園は自重してください。良いですね? 」
「わかった。制覇は次回のお楽しみにしておくよ。」
「ご理解頂けて何よりです。ハイネ、レイ、そういうことスケジュールを作ってくれ。ニ
ール、何か冷たいものが欲しい。」
はいはい、と、紫子猫の要望に、親猫は冷蔵庫から飲み物と何やら取り出して運んでく
る。カットしたバナナと、皮を剥いた巨峰を凍らせてある。堅いから気をつけて、と、言
われて、巨峰を口に入れたら、キーンと冷たい。
「レイ、ハイネ、ちょっと休憩。」
「おう。こりゃいいなー。」
「いただきます。」
レイは、バナナを口に放り込んで、もごもごとしている。寺のおやつは、些細なものが
多いが、かなり手作りが多い。ニールの暇つぶしもあるのだが、日々、新しいものを用意
して、子猫たちや年少組に食べさせてやりたいと思っているからだ。
「これなら、自然の甘さだから、大人でもいけるだろ? レイ、もし甘さが足りないなら
、チョコソースかけるって手があるけど? 」
もごもごしているレイは、うんうんと頷くので、残りの冷凍バナナに、チョコソースが
添えられる。ティエリアも、それに興味が湧いたのか、巨峰を食べ終わると、バナナにど
っかりとチョコソースをかけて口にした。
「これ、切って凍らせるだけだから簡単なんだ。組織でもできるぞ。」
食べ残した果物を冷凍する際に、一手間かけておくと、こういうことが可能になる。こ
れでフラッペにしてもおいしいんだ、と、親猫が説明すると、ハイネが感心する。
「さすが、寺の女房。これなら、三蔵さんも食えるな。」
「ああ、あの人の場合は、バナナは砕いてチョコソースかけにするとか、みかんは砕いて
酎ハイの氷代わりにしてる。」
更に手間をかけているらしい。そりゃ、三蔵さんが居ないと不機嫌にもなるだろう。そ
うやって甲斐甲斐しく世話されてたら、誰だって何もしなくなるに違いない。
「ニールは食べないんですか? 」
「食べるよ。みかんも食べるか? ティエリア。」
「いえ、これで十分です。」
「ママ、これ、シンの分もありますか? 」
「大丈夫だ。この間、大量に安売りバナナを買ったから、まだまだある。」
賞味期限ぎりぎりの果物が特価になっていたので、大量に仕入れておいたらしい。夏場
は、どうしてもアイスクリームなんかに手を出すが、あれはカロリーと糖分が高すぎるか
ら、果物を凍らせた。そうでないと、悟空は、ばくばくとファミリーパックを一日で消費
してしまうので、ニールはドキドキするらしい。カロリー云々もさることながら、アイス
クリームの値段についてもだ。庶民派貧乏性のおかんには、一日一箱のファミリーパック
消費は、家計に怖い。
「俺、ママニャンに慣らされたら、ものすごくハイクォリティーの女房を貰わないと満足
できなくなりそうだ。」
「バカなことを。専業主婦なら、これぐらいやってくれるさ。」
いや、こんな世話焼きの女性は、少ないだろう。というか、ある意味、ニールはダメ人
間製造機かもしれない。何もしなくても、なんでもしてくれるなんて堕落するしかない。
「俺も、ママみたいな彼女が理想です。」
「レイも理想が低いなあ、もうちょっと、上を望め。おまえさんの容姿と経歴なら、どん
な女性だって靡くぜ。」
「いえ、ママのような人は、なかなかいません。」
レイの知り合いは、みな、軍人だし、『吉祥富貴』関連も歌姫や、某国家元首様なんて
特殊事例ばかりだ。ニールのような家庭的な人は、レイにはニールと八戒ぐらいしかいな
い。
「そっかなー。おまえらは、もうちょっと出会いを大切にしないとさ。学校のほうのイベ
ントなんかで知り合うこともあるだろうし、そういうのにも参加しないとダメだ。」
「ええ、そう思ってます。」
「ハイネみたいになる前に、正しい男女交際っていうのも経験しとけよ? 」
「あははは・・・・そうですね。」
「ちょ、ちょっと待て、ママニャン。俺が失敗例みたいに聞こえるんだが? 」
「俺なんか口説いて、うちに居候しているのは成功例じゃないだろ? なあ、ティエリア
。」
「そうですね。すでに、夫のあるニールを口説いているのは、人間として正しいとは言え
ないでしょう。」
ティエリアまで、バカにするように目を眇める。いや、おまえらだって、三十路あたり
になると、ニールの貴重さは心に響くんだぞ? と、内心でツッコミしてハイネは、巨峰
を口に放り込んだ。
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特区の少し外れたところにある動物園は、かなり広大な敷地を有した立派なものだ。た
だし、この真夏の異常気象で、入園者は少ない。
そんな人の少ない動物園でも営業はしているから、ニールたちは、平日の午前中から、
園内案内パンフレットを片手に、歩き出した。パンダ舎は、先日、トダカと来たので、ニ
ールが案内する。
こっちだよ、と、観察棟に入ったら、冷房が効いていて、一同、ほーと息を吐く。いく
作品名:こらぼでほすと 休暇3 作家名:篠義