こらぼでほすと 休暇3
ら、劣悪な環境に対応できるコーディネーターとはいえ、この高温多湿は堪える代物だ。
駐車場からエントランスを通り、パンダ舎までで、すでに汗が噴出している。
「ほら、ティエリア。あれがパンダだ。」
誰もいないから、間仕切りのガラスまで近寄って、ニールが、どてっと伸びている白黒
の物体を指差す。
「あれは、死んでいるのですか? 」
「ううん、暑いから昼寝してるらしいぜ。でも、しばらく観てると寝返り打ったり、日陰
に移動したりするんだ。」
まあ、座れ、と、そこのベンチに座って、ティエリアはじっと、それを眺める。確かに
、たまに、もにもにと大きな手で顔を揉んでいたりするし、寝返りを打ったりする。綺麗
に分かれている黒と白の毛皮は、実際に見ると、かなり驚く光景だ。
「これは、自然にこうなっているんてしたね? ニール。」
「ああ、昔から極東地方に生息してるんだ。なんか、どっかの誰かに似てないか?」
「え? 」
親猫に言われて、こんなのに該当するのはいただろうか、と、考える。大きさなら、ラ
ッセあたりが該当するが、こんな暢気なタイプではない。ニールも、これとは違うような
気がする。そこで、ふと、ああ、あれか、と、ティエリアも気付いた。
「どっかのバカですね? 」
「そうそう。そう思うと親しみが湧くよな? 」
「だが、あれは、こんなに太ってはいません。それに動きも緩慢ではない。」
「そういうとこじゃなくてさ、なんか、ぼおーっとしてるとことかが、オフのアレルヤっ
ぽいかな、って。」
ティエリアの記憶しているアレルヤは、あまりぼぉーっとしていることはなかったと思
う。常に、周囲に気を遣うタイプだった。親猫の前では、こういう姿を見せていたのだろ
うか、と、首を傾げた。
「いや、そんなに真剣に考えなくていい。・・・・シン、レイ、汗は引いたか? 」
背後から同じように観察しているシンとレイに声をかけて、ニールは振り向く。
「汗は引いたけど、出るのはイヤになってきた。これ、きっついぞ、ねーさん。」
「エントランス付近だけの散策に変更したほうがいいかもしれませんよ? ニール。」
シンとレイは、自分たちで、こんなことなのだから、親猫には、この温度はまずかろう
と、予定変更を提案したのだが、親猫のほうは、頑として受け付けない。
「それなら、みんなでトラムで移動しよう。」
どうしても、ニールは実際の生き物に紫子猫を触れさせたいらしい。まあ、そこだけな
ら、と、ハイネも頷いた。トラムには冷房施設はないが、あれなら走っているから風はあ
る。あっちに到着したら、まずは水分補給だな、と、考えつつベンチを立つ。
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園内は、徒歩だと三時間ばかりかかるのだが、主要な部分はトラムが走っている。何箇
所かに駅があり、歩くのが不安なものは、それで、移動できるようになっているし、トラ
ムに乗車していれば、そこそこの動物も観察できるようになっている。
「ほら、あれがキリン。でかいだろ? お、こっちは、ライオンだ。」
パンフを片手に、親猫が紫子猫に解説してやっている。紫子猫は、動いている動物に興
味深々で顔を向ける。もちろん、シンとレイも同様だ。ハイネは、のんびりと、トラムか
らの景色を眺めている。動物たちが逃げ出さないように、周囲に大きな池が配置されてい
て、それが夏らしい色合いの景色になっているのだ。
ここの動物園は、極力、檻を使用しない方法で、動物の展示をしている。落下防止の手
すりぐらいはあるが、肉食獣以外は、人間と動物を隔てているのが、池だ。距離と少し離
れるが、檻がなく、自然に近い状態に暮らしている動物は、ストレスも少ないらしい。人
口ではなく、その動物が暮らしていた環境も再現しているから、たまに、木陰に隠れてい
て、動物が見えない場合もある。
「ニール、ここには動物がいない。」
「ん? ああ、虎のエリアだな。どっかの木陰に隠れているんだろうな。でも、こっちの
ボンゴってーのは、一杯いるぞ?」
「あれも縞模様があって綺麗ですね。」
そんなふうに、トラムの走る道の両側に動物はいるので、いないことは、すぐに忘れて
しまうのだけど。
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20分ほど、トラムに乗車すると、一番奥の駅に辿り着いた。ここに、ふれあい広場が
ある。そこで降りて、まずはフードコートで休憩にする。
「やっぱ、無理だな? ハイネ。これ、俺たちでもヤバイ。」
シンは、あちーっとミネラルウォーターを、ごくごくと飲む。
「そうだなあ。また、いつにも増して温度高いしな。ふれあい広場をクリアーしたら、ト
ラムで残りも見物するか。」
外気温は半端ないので、これでは、シンたちでも、途中でダウンしそうだから、見学は
、早めに切り上げることにした。
「それでいいか? ママニャン。」
「ああ、そうだな。」
残念ながら、ニールも、この屋外に長時間いられる自信はない。こんなところで具合が
悪くなると迷惑をかけるから、同意した。
「せっかくだから、ふれあい広場だけは行ってみましょう、ママ。」
残念そうな親猫が、塞がないようにレイが明るめに声をかける。ティエリアに、ホンモ
ノの動物に触れさせてやりたいと思っていたことぐらいは、させてあげたかった。
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ふれあい広場にも、人はいない。係員がいて、小さな柵の日陰部分に一人立っているだ
けだ。注意事項だけレクチャーされると、すぐに柵の内側に入れてもらえた。そこには、
ウサギ、ヤギ、モルモット、ミニブタなんかが放し飼いにされている。
「ティエリア、ウサギに触ってみないか? 」
ニールが率先して、ウサギを撫でて、ティエリアを招き寄せる。びくびくとした様子で
近寄ってきたので、ほら、と、手を掴まえて、ふわふわの毛皮に触らせたら、ひっと怯え
た声を出して、後退る。
「え? じゃあ、ヤギは?」
「あっああ。」
草を食んでいるヤギに近寄ったものの、じーっと、その背中を眺めただけだ。おや?
と、ニールは不思議そうに、それを眺めている。どうやら、生き物に触れるのが怖いらし
い。ハイネは、その様子に、後ろを向いて、くくくくく・・と、肩を震わせている。
「おーいっっ、逃げんな。待て。」
なぜか、手を出すと逃げられてしまうシンは、なーなーと声をかけながら歩いているの
だが、どの動物も、その構いたいオーラが激しくて逃亡する。そして、じーっと眺めて立
っているだけのレイの周囲に隠れるようにやってくる。ヤギは、はむはむとレイの手を舐
めているのか食もうとしているのか、もむもむと口を動かしているし、ミニブタは、ぴっ
たりとレイの足にくっついている。
「なんで、レイだけ。ずるいぞ。」
ブツブツと文句を吐きつつ、シンが近寄ると、そこから陰になるように動物も移動する
。
「おまえが追い掛け回すから嫌がっているんだろ? そっと近寄れば大丈夫だ。」
だが、そーっとシンが足音を忍ばせても、ウサギたちは、ぴょこたんひょこたんと逃走
作品名:こらぼでほすと 休暇3 作家名:篠義