こらぼでほすと 休暇3
する。へなへなとレイの前で、座り込んで、「触れねぇー。レイの意地悪。」 と、弱音
を吐くシンに、レイは苦笑する。たぶん、レイは無関心だから木と似たようなものと認識
されているのだ。それで文句を言われては迷惑だが、触れないシンが残念そうなので、ツ
ッコミはしないでおいた。
「俺、子供の頃は犬とかには好かれてたんだけどなあ。」
「草食動物には、向かないんじゃないか? ここにいるのは、草食系だ。」
うーとヤンキー座りで唸っていたら、レイの背後に隠れていたヤギが、シンのほうへと
ことこと歩いてきた。そして、もしゃもしゃっと、シンの髪の毛を食みはじめた。
「いてっっ。うわぁっっ。」
驚いて立ち上がったら、ヤギは、すかさず逃亡した。
「それなりに慰めてくれたんじゃないか? 」
「俺、草だと思われてたんだろ。」
ぷんふんと怒っているシンに、レイだけでなく、ハイネもニールも、ティエリアすら大
笑いしている。そして、そのティエリアのところに、ミニブタが近寄って、プギーと鳴き
声をあげたら、ティエリアは飛び上がらんばかりに驚いて、ニールの背後に隠れてしまっ
た。
「こいつらは噛んだりしない大人しい動物なんだけどな? ティエリア。」
「わっわかっている。」
「うん、まあ、人それぞれ、苦手なものはあるからいいんだけどさ。」
これで、こういう結果なら、水族館のタッチプールのナマコやヒトデなんて、絶対に触
れようともしないだろう。ちなみに、フェルトはカガリの別荘で、そういうことも体験し
てきた。楽しかった、という感想だった。どうやら女性のほうが、こういうことに強いら
しい。
「おっ俺は観ているだけで十分だ。」
「そうか? 可愛いのに。」
ニールの足元に寄って来たウサギを撫でていると、やはりレイと同じように動物は集ま
ってくる。
「あなたは平気なのか? ニール。」
「まあ、これぐらいなら。デカイのは俺も怖いけどさ。」
さすがに、パンダは触れない様な気がする。悟空が、暴れると凄いというのだから、や
はり熊のパワーは凄まじいのだろうとは思うからだ。
「はいはい、ぼちぼち終了。トラムが来る時間だから、それでエントランスへ戻るぞ。」
ハイネが時計を確認して、声をかける。これだけ閑散としていると、トラムの数も少な
いので、空き時間がかなりある。こんなところで待ちぼうけするのも暑いから、さっさと
エントランスへ戻ることにした。ちょうど、昼時だ。エントランスのレストランで身体を
冷やせばいいだろう。
・
残り半分も、トラムからの観察をして、エントランスのレストランで食事した。気温は
最高潮に上がっている。もうダメ、と、ハイネがドクターストップをかけたので、土産物
屋をひやかして買えることにした。
「ティエリア、八つ当たりグッズに、これはどうだ? 」
そこにある大き目のパンダのヌイグルミを、ニールは指し示す。すでに、それとは別に
、フェルト用だというワオキツネザルのヌイグルミをひとつ抱えている。
「この間ので間に合っている。」
すでに、ティエリアにはジンベイザメの小さな八つ当たりグッズがある。それは、ニー
ルがフェルトに言付けてくれたものだ。
「あれは小さいだろ? おまえさんがパンチするなら、これぐらいのほうが楽しいぞ。」
確かに、高さ80センチはあろうかと言うパンダのヌイグルミは、パンチしたら、ちょ
うど良さそうな加減ではある。
「俺は八つ当たりなんかしない。」
「じゃあ観賞用に。」
「あなたが買いたいなら買えばいい。」
「よしっっ、これでいいな。シン、レイ、おまえさんたちも、なんかいらないか? 」
「ねーさん、俺、このTシャツがいい。」
ホワイトタイガーの顔が全面にプリントされたTシャツをシンは持ち上げる。レイは、
何も、というので、似たような狼のTシャツを、勝手にニールがチョイスする。本日、付
き合ってもらっている礼といったところだ。ハイネは、こんなものじゃ喜ばないから、晩
御飯に、好みのおかずを用意することにする。
「今度は涼しい時期に来ような? ティエリア。」
「ああ、今度は徒歩で一周して、じっくりと観察しよう。」
動物園自体は気に入ったらしい。接触はしたくないが、見るのは楽しいというのが、テ
ィエリアらしいのかもしれない。
動物園から二日ほどして、水族館へも出向いたが、やっぱりハイネがアッシーでついて
きた。とはいうものの、「俺は、適当に涼んでるから、帰る時に連絡してくれ。」 と、
ふらりと離れていったので、親猫と紫子猫のふたりで散策した。
売り物になっているシャチやイルカ、オタリア、アシカのショーは派手で楽しいものだ
った。ただの展示ではないので、ティエリアも楽しそうに眺めて笑う。
「こんなことができるのか? 」
「なあ、ティエリア、これも触られるけど、やってみないか? 」
動物園では、ウサギもおっかなびっくりだったが、こっちなら、どうだろうと親猫は尋
ねてみたのだが、紫子猫は顔色を青くした。
「・・・あ、ああ・・・」
「・・・・・ごめん、もう言わないよ。」
どうやら触るのはダメらしい。ニールも、海洋生物には触ったことはないが、ちょっと
した好奇心はある。
「猫とか犬なら? 」
「触ったことがないからわからない。ニール、あなたは、そんなに俺に試練を与えたいん
ですか? 」
「いや、そうじゃなくて、こう、なんていうか、触ると癒されるものがあってさ。」
と、ショーの終わった水槽の傍で話していたら、バシャーンと派手な音がして水が降っ
て来た。
「うわぁっっ。」
びっくりして呆然としていたら、ケケケケケという鳴き声がする。水槽には、イルカが
近寄っていて、バシャバシャと水をヒレでかけていた。
「なっなんてことをするんだっっ。」
「こいつ、悪戯なんかしやがって・・・・」
びしょびしょになった親猫と紫子猫は、ケケケケケと鳴いているイルカに悪態を吐いて
、それから大笑いした。この暑さだから、水を被るくらいは気持ちがいい。
「お客さーん、大丈夫ですかー? 」
慌てて飛んできた飼育員が、タオルを渡してくれる。このイルカは悪戯好きで、水槽の
ところに立っている人間に、水をかけるのが趣味なのだそうだ。この時期だから、すぐ乾
くだろうと、水槽から少し離れたところで乾かしていたら、背後からハイネが現れた。
「ほれ、着替え。ティェニャンのもサイズいけると思う。」
「すまないな、ハイネ。」
ティエリア、脱げ、と、ニールもTシャツをがばりと脱いで着替える。のんびりつかず
離れずで付いて来ていたハイネは、その惨劇に、近くのショップへ戻り、サイズだけ確認
してTシャツを買ってきたのだ。
「イルカにまでプロポーズされたか? 紫子猫ちゃん。」
「あははは・・・そうか、ティエリアが綺麗だから一目惚れされたんだな。」
ハイネとニールがからかうと、ティエリアは、「違うっっ。」 と、力一杯、全否定だ
作品名:こらぼでほすと 休暇3 作家名:篠義