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難攻不落の男

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 エドワードは実は女の子、であった。といって名前は元々本名だし、性格だってわざと装っているわけではない。普通にしていてこうだから、誰にも疑われたことはないのだ。
 …ただ、いつまでも本当にそれが通じるわけはないし、現に昨日、ミーナにはお嬢ちゃんと呼ばれた。大佐もなんだか気付いているようだった。ただ、彼は、見ぬふり知らぬふりをしてくれたけれども。
「…とにかく。今度は、大佐とだって二人きりでどっか行くのはやめて」
「…え?」
 ちょうどロイの事を思い出している時に言われたので、一瞬エドワードは息を飲んでしまった。それから、慌てて顔を上げる。
「え、じゃないでしょ。当たり前でしょ?大佐は…別にそんな分別のない人じゃないと思うけど、でも結局は他人だし、男の人なんだよ」
「――――」
 アルフォンスがさらりと口にした当たり前の事実に、エドワードは息を飲んで目を見開いた。
「…姉さん?」
 そんなエドワードに、アルフォンスが怪訝そうな声をかける。
「…なんで、…でも、大佐は信用して、いいんじゃないか…」
「そりゃまあ、他の人に比べればね。…薄々気がついて、知らん振りしてくれてるみたいだし。…でも、酒を飲ませるなんて」
「え?」
「だって、昨夜姉さんに飲ませたんだろ。確かに送ってきてくれて、謝ってくれたけど、ボクはちょっと呆れ…」
「違う!」
 弟の憤懣やるかたないといった口調を、エドワードが焦ったような調子で遮る。アルフォンスはぽかんとした様子で、姉さん?と首を傾げた。驚いているように感じられた。
 だがその時のエドワードはそれどころではなかったのだ。
「違う、大佐が飲ませたんじゃない、オレが勝手に飲んだんだ!大佐は駄目だって飲ませてくれなかったのに、店のおばさんがくれたのをオレが飲んじゃったんだ!」
「…は?」
 呆気にとられたようなベッドサイドの弟に、ベッドの上ずりずりと身を寄せて、眉根をぎゅっと寄せて、エドワードは訴える。
「違うんだ、大佐は悪くないんだ…、オレが、ちゃんとしないから」
「…ちょっと落ち着いてね、姉さん」
「オレは落ち着いてるよ!」
 アルフォンスはすぐには答えなかった。溜息をつき、軽く頭など振っている。客観的に言うのなら、答えなかったのではなく答えられなかったのだろう。エドワードには納得のいかないことだが。
「失礼な奴だな」
「…あなたに言われたくありません」
 慇懃に返され、エドワードは拗ねたように口を尖らせた。
「…姉さんがちゃんとしてないってのはまあその通りだとして」
「…なんでそこを否定しないんだよ」
「だって本当のことだし。自覚があるならそのままでいてほしいよ」
「………意地悪な奴だな」
「なんとでもどうぞ」
 アルフォンスは困ったように首を傾げて、優しそうな、けれど何となく寂しげな声を出した。
「ねえさん」
「…なに?」
「…大佐のこと、好きなんだ」
 たとえば、今日は晴れだとか、風が気持ちいいとか。
 そんな話をするような気安さで尋ねられ、いや確認されて、エドワードはそのままうんと頷いてしまいそうになった。けれど首をこくりと動かしかけて、そこでようやく質問の意図が頭に入ってきて、かあっと顔を染める。
「………なにいってんだ!」
 全力で否定したら、弟はこともあろうに天を仰いで額を押さえている。恐らくものすごくこれは誤解されている、とエドワードは焦ったが、彼は伊達にエドワードの弟を生まれた時からやっているわけではなかった。
「…好きなんだね」
「だからっ! …なんだ、それ!なんでそういう話になるんだよ!」
 あのねえ、と小さな子供に言って聞かせるような口調でアルフォンスは切り出した。非常に馬鹿にされている気がして、エドワードは眉を尖らせた。
「…そんなに力いっぱい庇うって、そういうことでしょ?違うの?」
「…ち、ちがう! …そうじゃなくてオレは! …オレのせいで、誤解されたら、…いくら大佐だって、ほら、…かわいそうだろ…?」
「普段ダントツで迷惑かけ倒してるの誰だかわかって言ってるならすごい度胸だよ…」
 アルフォンスの背中がすすけている。まだ朝だというのに。
「なんだよ!もう!だから、とにかく、そういうのじゃないからな!」
「いいじゃん、別にそんな否定しなくても。大体元々姉さんは大佐贔屓なんだもん、別に好きでも当たり前でしょ」
「…なん、だ、それ…」
「あのねえ…」
 アルフォンスはどうしたものかと迷うように顎をつまむような動作をした後、エドワードを正面から見つめてゆっくりと告げた。
「姉さんは、最初から大佐に懐いてたよ。だって顔見ればわかるもん。それにボクだって大佐は嫌いじゃないよ。何だかんだで信じていい人だと思ってる。…そう思ってたから腹がたったっていうのもあるくらいだし」
「………なん、…そんなこと、ねえ…」
「そんなことあります。…別に誰かを好きになるのは悪いことじゃないでしょ?」
「…そ、だけど。…でも、オレは、そういう…」
 エドワードの脳裏に、昨日の女性達の会話や、それから昨日半日くらい一緒に行動したロイの仕種や言動が蘇る。
 ぎゅっと目を瞑り、エドワードは寝起きだからかもしれないが、突拍子もないことを口にした。
「でもオレ手を出して欲しいなんて思ったことないぞ!」
 …エドワードの中では、少なくとも整合性の取れた言葉だった。
 ただ言う相手を間違えている感は否めないが。
「………そりゃボクもそこまでは言ってないんだけど」
 アルフォンスは乾いた笑いを浮かべながら、はてどうしたものかと首を捻った。
 普通にお説教するつもりが、なにやら怪しい雲行きではないか?
「オレは、そんなんじゃ、ないんだ…!」
「はいはい、わかったから落ち着いてよ…」
 どうどう、とでも言いそうな調子で、アルフォンスは姉の肩をたたき、ついでに背中を撫でてくれた。よっぽど手のかかる子供のようで悔しいが、とにかく否定を口にしないと安定を保てなさそうだったのだ。
「……。だって、難攻不落だって」
「……は?なにが?東方司令部?」
「違う。大佐が」
「………ははぁ…?」
 アルフォンスはどうやら困ったらしい。その気持ちはエドワードにも何となくわかった。エドワードだって、最初に聞いた時には何の冗談かと思ったのだから。
「…女の人たちが、言ってたんだ。司令部で。食堂で」
「…ああ…、何となく事情がわかってきた気がするよ…」
 エドワードの弟をやって長いアルフォンスは、おぼろげに事態が飲み込めてきたような気がした。
 要するに、これは恋愛のごくごく初期症状ではないのか。
 元々エドワードは無意識ではロイの事を慕っているようだったし、素地はあったのだ。だがそれが思慕を超えることはなかったし、自分自身意識することもなかったのだろう。錬金術馬鹿で思い込んだら一直線のエドワードだ、今のように目的がしっかり定まっている状態を考慮すれば至極当然の事だろう。
作品名:難攻不落の男 作家名:スサ