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難攻不落の男

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 だが、他の女性、恐らくそれは見ず知らずの女性、ということだろうが(まさかホークアイ中尉がそんなことを言うとはアルフォンスにはどうしても考えられなかった)とにかく他の女性にロイを褒められ(だろう、端的に言うのなら)妙に意識してしまって、自分でも収集が着かなくなっているといった所に違いない。
 なんとも、まあ。我が姉ながら可愛いというのか鈍いというのか。
「じゃあねえ、姉さん。ボクからアドバイスを上げるよ」
「…アドバイス? …おまえ弟の癖に生意気だぞ」
「まあまあ、そこは目をつぶって。姉なんでしょう?だったら大きな心で弟のタワゴトを受け入れるのも度量のうちじゃない?」
「…それもそうか」
 アルフォンスを疑うということを知らないエドワードは、あっさり丸め込まれて頷いた。それと、口に出しては否定しているが、誰でもいいから頼りたいという気持ちも多少はあるのだろう。何しろこれはまったくもってエドワードには専門外の問題だったから。
「どんな難攻不落の要塞だって、出入り口は必ずあるんだよ」
「………?」
「不死身のアキレスにも、かかとっていう弱点があったみたいにね。大佐にだって、弱点もあれば、攻略方法だってあるはずだよ」
「…攻略方法って…」
「なんだったかな、ファルマン准尉に教えてもらったことがあるよ。ええとね、将を射んと欲するにはまず馬を射よ、…だったかな」
「…?」
「まず足場から固めろってことかな。ボクとしては、中尉に相談することをオススメするね」
「……中尉に?」
 そう、とアルフォンスは頷いた。
「大佐を狙うなら、まず中尉だよ」
「………だから、オレ、狙うとかそういう…!」
「いいからいいから。…それに、それがなくても中尉には知っていてもらった方がいいと思ってたんだ。…姉さんのこと」
「………」
「色々、…女の人が知っててくれたら助かること、あるだろ?ちょうどいい機会なんじゃないかな」
 エドワードは複雑な顔で弟をじっと見つめた。何か言おうとしているような表情だったが、言葉がうまくまとまらないのかもしれない。
「……とにかく姉さんに今必要なのは落ち着くことだと思うよ」
 アルフォンスは困ったように姉の前髪を撫でた。そうっと、優しげに。



 とりあえず色々と釈然としないような気持ちで、エドワードはひとり司令部へ向かって歩いていた。結局あのレポートは終わっていないので、まだ司令部へ行く必要があったのだ。
 行く道すがらエドワードはぐるぐると考えていた。
 案外スパルタの弟は、ひとりで行ってきて相談したりして来るんだよと送り出してくれた。前日はオレはひとりで行くぜと肩で風切るようにして出発したのだが、なんだか今日はさすがにそういう気分にはなれなかった。
「……」
 本格的に移動する以外ではトランクなどの荷物は持ち歩かないのだが、今日は珍しくエドワードは手ぶらではなかった。いつも、大事なものでもなんでもポケットに入れてしまっているのだが、今日はポケットに入りきらなかったのだ。
 それは正方形の白い紙袋、その中に入った化粧箱。そして箱の中身はショコラ。
 ロイがお土産にと持たせてくれたあのショコラである。彼は律儀にも、エドワードを送り届けるついで、これも一緒にアルフォンスへ渡してくれたそうだ。
 そして恐らくは、すまないとアルフォンスへ謝って。怒っていたであろうアルフォンスの抗議に反論もせずただ謝って。けして軽くないエドワードを宿まで運んだ上に。
 …考えただけでも猛烈に恥ずかしく、眩暈がしてきた。
 しかも弟は朝から妙なことを言うしで、エドワードの脳みそは焼き切れてしまいそうだ。
 ふわりと不意に風が吹いて、前髪を揺らした。鬱陶しいな、と片手で髪を押さえれば、なぜか視線を感じた。
「…?」
 場所はそろそろ司令部の門をくぐろうかというところである。なんだろうかと顔を上げれば、見知らぬ二人組みの軍人がこちらを見てなにやら目を丸くしていた。意味がわからない。
「…なん…」
 何かあるのかとそちらに一歩踏み出して、背中に急に気配を感じた。と思ったら、くーい、と襟首をつかまれ猫の子よろしく後ろに思いっきり引っ張られつまみ上げられるような格好になってしまった。はっきりいって、屈辱だ。
「…な!?」
「おはよーさん大将」
「…ハボック少尉」
 なんだと抗議しようと思ったのだが、相手が顔なじみの彼だったことでエドワードはやめた。かわりにむすっと見上げて、なんだよ、と口を尖らせる。すると彼は困ったように苦笑して、エドワードの襟首を捕まえているのとは逆の手でわしゃわしゃとその金髪をかき回した。
「わっ!」
「何口尖らせてんの。ほらほら、大佐んとこだろ?あの人今日昼前から視察なんだ、もう来てるから早く行きな」
「えっ大佐もう来てんの?!早くない?!」
「あの人は別に遅刻魔じゃねえぞ。…サボり魔だけど」
「……それは…似たようなもんじゃねえの?」
「まあそうともいう。…って、おまえ内緒だぞ、これ。って、ほれ、行け行け」
 ハボックは捕まえた時同様唐突にぱっとエドワードを離し、思わずよろけてしまった小柄、その肩をやんわりと捕まえた。なんだか壊れ物に触るような繊細な触れ方。そして、エドワードが何かを感じるより先に、早く行きな、とばかりぽんと頭を叩かれる。
「…へーい」
 エドワードはどこまでわかっているのか不明だが、子犬のように笑って首をすくめた後、軽やかに司令部の中へかけていく。
「またな、しょーい!今日は昼一緒に食べような!」
「はいはい、お供しますよ、お兄さんが。っておい大将前見ろー、転ぶなよー!」
 ころばねえ、とでも言いそうな顔でエドワードは思いっきり舌を出していってしまった。その背中が完全に消えたところで、ハボックは頭をかいて溜息一つ。
「…まぁったく、危なっかしいったら…」
 額面どおりに受け取るのなら、足元も見ないで司令部の中をひょいひょいと駆けて行く部分についての感想であろう。だが、勿論といっていいものかどうか、ハボックの慨嘆はそんなことを指摘してのものではなかった。
「…さて、と」
 彼はくるりと振り返り、エドワードに視線を投げつけていた二人組に向き直る。彼らの面持ちは緊張していた。それはそうだろう、新配属の二等兵が少尉殿に緊張しないわけはないし、まして少尉にあそこまでぽんぽんと対等な口を叩いて許されるような子供にあらぬ目線を送っていたのだから。
 とはいえ彼らだけを責めるのも酷な部分がないではない。その辺はハボックにもわかっている。だがそれ以上に、あの子供に何か不埒な真似をしたら少なくとも東方司令部では命が危ういということもわかっている。
「おーいおまえら、新人だな。俺がこれからありがたいお話をしてやるから、まあちょっとつきあえや?」
 処世術の指南だなんて、なんて親切な上官だ、俺。
 ハボック少尉はうんうんと頷きながら、自分の度量の広さを自分で褒め称えてみた。――さすがに、内心で、だったが。彼は案外出来た人間なのである。

 ハボックに急かされたまま大佐の執務室の前まで小走りにやってきて、そこではたとエドワードは気付いた。
作品名:難攻不落の男 作家名:スサ