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帝国の薔薇

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 さらりとはぐらかして、ロイは部下に向き直った。その背中を見ながら、こうやって部下と落ち合う事だってどうやってどこで連絡をつけていたんだろうか、とエドワードは唇を噛んだ。年齢も経歴も違うのだから悔しがってもしょうがないのだろうけれど、それでも悔しかった。
「あ、殿下、即席ですけどシチューですよ。田舎料理ですけどね、あったまりますよ」
 そんなエドワードを、ハボックが碗を手に振り返った。
「…ありがと」
 それを礼を言って受け取れば、ハボックは軽く目を瞠った後、いいえ、どういたしまして、と嬉しそうに破顔した。
「あとね、ちょっと固いですけど、パンと、あとサラミとチーズ」
 パンの上にナイフで器用にサラミとチーズを載せて、はい、とそれも手渡す。ふうふうとシチューを吹いていたエドワードは、それも、ありがと、と受け取る。無意識に笑ってしまったのは、多分、暖かい食べ物が嬉しかったからだ。
 その暖かさが染み入るのを感じながら、エドワードは不意に、出立前、ホークアイが初めて訪ねてきた日のことを思い出していた。ロイは、あの日、皇太子であり続けることも含めて覚悟が必要だ、と言った。覚悟ってなんだろう、とぼんやりとエドワードは思う。けれど多分、それは、こうやって暖かい食べ物を皆が食べられることだな、と最終的にはそういう結論に至った。そんなことをロイに言ったら呆れられるかもしれないけれど、それは、たとえば戦争で勝つことの何倍も有意義なことのように思えた。


「しかし、おかしなものですね」
 レイブンと向かい合っての食事の席で、キンブリーが口を開いた。
「自分こそが帝位を望む立場でありながら、あえてあんな小娘のお守りをしているなんて…覇気のない男だとは思いませんか」
「ああ…マスタングのことか」
 レイブンは瞬きの後、苦笑するように唇を歪めた。
「まあ、目の前で親を殺され怖気づいたんだろうさ。何しろ確かにあの女帝は強烈だからな」
「最初は彼を取り込むべきかと思ったんですがね、あれは、無理でしょうね」
「だろうな。あそこまで忠義が篤いとは思わなかったが」
 パンをちぎりながら、レイブンが答える。
「だがまあ、駒にするにはいささか知恵がつきすぎている。いずれにせよ、向くまいよ」
「確かに…」
 肉を噛み切りながら、キンブリーは凄惨に笑った。
「ところで、グラマンの孫娘はどうする?」
 その話題を出した瞬間、レイブンの顔が好色に歪んだ。幾分呆れた顔で、キンブリーは答える。
「どう、とは?」
「取り込むべきではないか、という話だ。…なかなかの美形だしな、殺すのは惜しかろう?」
「レイブン将軍。人質は無傷な方が価値があるものですよ」
 やんわりとたしなめられ、レイブンは、ぐ、と詰まった。
「なに、じゃじゃ馬と名高い皇太子殿下もお人よしの副師団長殿も、あのまま黙って逃げはしないでしょう。もう一度やってきたら、その時はご随意に」
「そうか、そうだな」
 機嫌を持ち直したレイブンに、キンブリーはやれやれと肩を竦めた。


 
 エドワードの足は他の三人に比べてとても早いとはいえなかったが、ロイも背中に怪我をしていたし、誰からも特に批難されることはなかった。なかったけれども、エドワードは必死に歩いた。そして、こんなに長い距離を自分の足で歩くのは初めてだ、と思った。麓が近づく頃には足の感覚がなくなっていて、…そこで見かねたハボックが背負うことになった。悔しさに唇をかみ締めるエドワードに、ハボックは陽気に笑いながら、嬉しそうに言った。
「うちの殿下は頑張り屋さんですよね」
「…頑張っても、頑張るだけじゃ駄目じゃないか」
 口を尖らせても、ハボックだけでなく、他の二人も笑うばかりだった。
「どこに出しても恥ずかしくない努力家の殿下だ。…ただし、ダンスは躍らせられないが」
「ダンス?お得意じゃないんですか」
「あんなのできなくたって困らないだろ…!」
「足は踏まないようになったがな。そうだ、帰ったらまた特訓しなくては」
 あくまで冗談交じりの言にエドワードはわなわなと震えたが、部下達があまりに楽しそうなので、結局口を尖らせただけで何も言わなかった。

 作戦というほど大それたものではなかったが、計画としては、拘留されている近衛師団を解放し、マーロウ配下の兵と、どちらにつくか迷っている兵力とを味方につけ、レイブン及びキンブリーを捕らえるというものが立てられていた。
「近衛の連中の牢屋ならすぐにも解放できますんで」
 あっさりというハボックは、昔は市中警邏の部隊にいたのだという。小技を持っているなと感心していたら、殿下?と首を傾げられ、なんでもないとエドワードは答えた。
「砦の残存兵力の方は?様子はどうなんだ」
「実は、同期がいましてね」
「それはすごいな」
「はい。ラッキーでした。まあそいつの協力もあって、食材なんかも多く持ち出せてきたわけなんですけど」
 エドワードは自分の腹を抑えた。なるほど、あのシチューにはそういうからくりがあったのか、と。
「そもそもあの砦自体は女帝陛下が強化して作らせたものですから、元々女帝贔屓なんですよ。あそこの連中は。なのにそこにキンブリーのヤツがやってきて、殿下を害そうとした…、っていうんで、結構揺れてるみたいです」
 そこまで言って、ハボックはにやりと笑った。
「勿論、いっときましたよ。殿下は必ず戻られるし、陛下はこんな無謀を許さないだろう、って」
「…その同期の影響力は?」
「配膳部隊と警邏部隊にひとりずついましてね。配膳部隊は強いと思いますよ〜、あそこで食い物止められたらひとたまりもないですからね」
「……」
 ロイは暫し沈黙した。呆れているのかとエドワードは思ったが、次に彼が口を開いたとき、そうではなかったことが知れた。
「勿論、キンブリー達の食事に一服盛ることは可能だな?」
「――勿論」
「一服、って…」
 唖然として目を見開いたのはエドワードだけで、二人はもうその算段に入っている。
「あくまで拘束できればそれが最良だ。痺れ薬か何かがいいんだがな」
「情報を聞き出すってわけですか?」
「キンブリーには色々聞きたいことがある。レイブンも、いきなり殺してしまうのもまずいだろう」
「アイサー。了解です。では、決行は食事にあわせて、ですね。明日の昼で大丈夫ですか?」
「そうだな…いや、明日の夜にしよう」
「夜ですか?しかし、吹雪きませんかね…」
「吹雪いた方がいいだろう。外に逃がさないで済む」
 さらりと言った言葉はあまりにも普通の調子だったが、そこには底知れない何かがあって、エドワードは無意識に肩を震わせた。
「…姫?寒いのか」
 そんなエドワードに目を留めて、ロイが軽く眉をひそめる。それには首を振って、なんでもないと答えた。
「ではハボック、頼んだ」
「お任せを。フュリー、戻るぞ」
「はい」
 気の良さそうな青年は、近衛師団の従僕のような形で行軍してきたのだという。本来であればエドワードやロイとは直接言葉を交わす機会もない兵士だが、それだけに、エドワード達は特別であるようで、戻る際は緊張に固まった敬礼を見せてくれた。
「…さて。我々は、明日の夜まで潜伏だ」
作品名:帝国の薔薇 作家名:スサ