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帝国の薔薇

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 ロイの口調はあくまでも淡々としており、なんだかいまひとつ焦りというものを感じさせなかったが、言っていることが本当なら大事だということくらいはエドワードにもわかる。
「そしてそいつらの裏にいるのは、ウロボロスと呼ばれる…まあ、秘密結社、のようなものだ」
「…ウロボロス…?」
 耳慣れない名に首を傾げれば、ロイがわずかに笑った。
「知らなくても特に問題はない。だが、まあ、昔からこの国の影にあって、政治にも影響を及ぼしてきた連中だ。簡単に言ってしまえばな」
「…なに、それ…」
「今の陛下が陛下になる際に連中を城から一掃したんだ。それでいなくなったのかと思っていたが、どこかに息を潜めて機会をうかがっていたらしい」
 エドワードは呆然とロイを見上げていたが、やがてぽつりと口にしたのは、こんなことだった。
「…いつ、そんな詳しい情報、入ったんだ?」
 疑うのでもなくそんなことを聞いてきた主に、ロイは薄く笑った。
「これでもいくらか情報網はあってな。さっき合流したんだ。後で紹介しよう、ヒューズという男だ。ブレダにも手伝ってもらったが」
 エドワードは困ったように眉根を寄せた。
「…街中の様子は?」
 ロイは肩を竦めて首を振った。
「今のところ、戒厳令ってところみたいだな」
「戒厳令…」
「暴動とかそういったのは起こっていないようだ。…姫の好きな喫茶店、何と言ったかな…あの赤い屋根の。あの店も無事らしい。よかったな」
「オレの好きなってなんでそんな…! …って、そんなのは聞いてないだろ!」
 さらりと言われた台詞に真っ赤になって反論すれば、そうだったかな、とロイにはぐらかされる。緊張させないようにやっているのか、単純に性格がひねくれているのか微妙なところだ。
「好きだったろう?あの店のチェリーサンド。紅茶の店なのに」
「好きだけどそれとこれとは話が違うだろ! …真面目に報告しろよ」
「しているさ。それで、…どこまで話したか。そうだ、陛下が行方不明で、重臣達の半分以上が敵になった。現在宮殿は占拠されていて、中の様子はわからない。街には戒厳令が敷かれている。…だが、朗報もある」
「朗報?」
「ああ。最も敵になるかと思っていた御仁が味方だったらしい」
「…誰だ?」
「わからないかな?ブラッドレイ公だ」
「…キング?」
 怪訝そうに瞬きして口にした少女に、ロイが初めて難しい顔をした。
「…なんで名前なんだ?」
「だって、昔から優しくしてくれた。お菓子くれたり」
「…殿下?お菓子をくれる人がいい人じゃないだろう」
「でもマスタングからはお菓子もらったことない」
「…わかった。今度は飴でもなんでも仕込んでおくから。いや、今はそんな話をしているわけじゃない。…殿下、親しいのか?彼と?」
 不審げに問うロイに、エドワードは実にあっけらかんとした様子で首を傾げながら答えた。
「親しいとかはよくわからないけど、昔から優しかったとは思う。お菓子もくれたけど、剣の稽古も見てくれたぞ」
「…殿下。なんだかな、私はちょっと切なくなってきたぞ…」
「なんでだよ?」
 心外そうに眉をひそめるエドワードに、わからないならいい、とロイは諦めきった様子で溜息をついた。
「まあ、いい。話を戻そうか。とにかくだ、今、都の中は、一応中立という形になっているブラッドレイ公と反女帝派がにらみ合っている、という情勢らしい」
「……」
 何となく納得がいっていない顔ではあったが、エドワードは神妙に頷いた。
「で、我々の動きだが」
「勿論、正面突破」
「…殿下、あのな…」
 もう少し戦略とか戦術とか、と言おうとして、ロイは強い目に遮られる。幼いとはいえ、その視線は強く、射抜くようなものだった。
「オレは間違ってない。だから、正面突破しかない。大体自分の家に帰るのに正面から入らないなんて変だろ」
 むちゃくちゃな、と叱り飛ばすこともできたのかもしれない。けれどロイにはそうすることが出来なかった。
「…出来ないなんて、オレの有能な副官なら言わないよな?」
 そんなロイに、にっと笑って、悪戯っぽくエドワードは言う。う、とロイは柄にもなく詰まってしまったが、盛大な溜息をつくと、ぐしゃぐしゃと乱暴にエドワードの頭をかき回した。
「――いつの間にそんな口がうまくなったんだ、この殿下は!」
 諦めたように言って、ロイは立ち上がる。
「――では、作戦は任せてもらおうか」
「ああ。任せた」
 信頼で目を輝かせて頷いた主に、ロイは苦笑して肩を竦めた。
「…これは責任重大だな」





 ブラッドレイの屋敷では、とにかく撃って出ようとする女帝と、今は時ではないと止めるマイルズ及びブラッドレイの攻防が連日繰り広げられていた。そんな最中にブラッドレイ邸を訪れたのは、金髪の背の高い男と、対照的にずんぐりした体型の男であった。
「エドワードが?」
 女帝の前に畏怖だけでもなく畏まった二人は、ロイに言われた通り、エドワードの率いる軍が都のすぐ傍まで迫っていること、近いうちに正面から仕掛けることなどを告げた。
 但し、ロイにしても、女帝がブラッドレイの許にいるというのは、可能性は考えていたにしても確実ではないと思っていたので、当然使いに立った二人にとって予想外の出来事だった。彼らはあくまでブラッドレイへの取次ぎの使者だったのだから。
「正面から…マスタングめ、エドワードに折れたか」
 くつくつと喉奥で笑いながら(それがまた、猫科の猛獣の唸り声を思わせるようなものだった)彼女は腕と足を組み直して答えた。
「それで?こちらと動きをあわせようと?」
「…いえ。陛下が宮殿に入られるよう、こちらが動いた方が良いでしょう」
 軌道修正して答えたのはブレダだった。
「ふうん?私の花道を作ってくれるというのかい?」
 面白そうに言う女帝に、ブレダは畏まったまま続けた。
「今回反勢力に回った陣容は、文人寄りです。ですからまずは軍をこちらにつけることが肝要かと」
「ふん…」
 女帝はそこで不敵に笑った。
「軍の半ば以上、将官はさすがにそうもいきませんが、士官以下はみな陛下をお慕いしております。私が見たところ、今は上の命令で動いておりますが、陛下から直接号令があれば、彼らは動くでしょう」
「…なるほど?クーデターを起こさせるのか?」
 面白そうに応じる女帝に、ブレダは苦笑した。
「今一部の重臣達が起こしているのこそクーデターでしょう。言葉の定義は、さしたる問題ではありませんが…」
 ブレダはハボックに合図して二枚の地図を広げさせた。一枚が都の地図、もう一枚は宮殿の見取り図だった。
「今のところのプランとしては、こうです。まず、エドワード殿下の軍が都の入り口から入ります」
「本当に正門だな」
「はい。ただ、我々が戻るにしても、もう少し日数がかかると反勢力は踏んでいるはずです。実際、飛ばしましたからね…」
「そういえばそうだな。北から戻ったにしては随分早い」
「足の速いのだけ先行させました」
 ブレダは都の正門から宮城へ至る道を示した後、宮殿の見取り図に視線を移した。
「殿下がはいらられた時、重臣達がどういう反応を示してくるか、は二通り考えられます。一つは懐柔、ひとつは徹底抗戦です」
作品名:帝国の薔薇 作家名:スサ