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帝国の薔薇

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 エンヴィーは、ふいにポケットを探るような仕種をして、…隠しから親指の先ほどの赤い石を取り出した。
「この国ではもう十分ためさせてもらったからさ。もう本当は用なしではあったんだけどねえ」
「…なんだと?」
「でも最後にどかんともういっこ、でっかいのが作りたくてね。それが今回首突っ込んだ理由。すっきりした?」
 女帝は答えず、こきこきと首を鳴らした。
「…それで?」
「それで、って?」
 青い目が奥に炎を湛えて爛々と燃えた。
「貴様らの狙いはわかったが、それに付き合う義理はない。さっさとエドワードを返して、私にその首を跳ねられろ」
 サーベルを構える体からは闘気のようなものが立ち上って見えた。彼女はやはり、女帝である前に戦士なのだ。
「それはちょっとできない相談ね」
「ではエドワードを返せ。残りは私が自力でやり遂げるから心配ない」
「私もそれには賛成だな」
 女帝の隣というか、斜め後ろでロイが静かに同意した。彼の態度は、そもそも玉座の間に入ってきた時からかわりがない。
「殿下を返してもらおうか?」
「まあ、怖いわね。そんなの無理。でも、そうねえ、ではヒントを上げましょうか。薔薇は薔薇が咲く場所に」
 ふふ、と笑って、美女はぱちんと指を鳴らした。途端、部屋に仕掛けられていたのだろう、発破が作動した。
 幸い全員が爆破からは逃れて、縮こまらせた身を上げた時、そこにはウロボロスはいなかった。






 赤い光が消えた後、エドワードは気がついたら、草原のような場所にいた。春なのだろうか、暖かな陽射しがおりて、地には名もない花がたくさん咲いている。どこかで鳥が鳴く声がして、川も遠くに流れているらしい。ふと、天国ってこんなかな、と思い、ぞっとした。
「…マスタング?」
 そしてはっとしたのは、今まで自分は宮城の回廊にいたはずだ、ということを思い出したからだった。ここは違う場所、どころではない。途端に青ざめて、エドワードはあたりを見回した。しかし、何もない。急に明るいはずの光景がいとわしいものに思えてきて、寒気を感じた。
「…なんだ、ここ…」
 どうしよう、と膝を抱えてしゃがみこむと、まるでエドワードの意識を読んだように、あたりの景色が一変する。まるで何もない場所になってしまったのだ。
「…しんじゃったのか…?」
 そんなのやだ、と子供のように口の中で繰り返す。さめろ、さめろ、と何度も唱える。これは悪い夢に違いない。自分はきっと、何かの衝撃で気を失っているだけなのだ…、
「…エドワード?」
 と、しゃがみこんでいた自分の肩に、誰かの大きな手が置かれた。途端、ごうごうと鳴っていた風の音のようなものが止まる。
「…エドワード?エドだね?」
 それは優しい声だった。もうずっと昔に聞いたきり、ずっと聞いていなかった。恐る恐る顔を上げて、エドワードはは以後を振り向く。そして、ゆっくりと口を開いた。
「…おとうさん?」
 そこでは、記憶にあるのとかわりない顔をした父が、あの頃より長い髪を後ろで結んで笑っていた。
 父を意識した瞬間、ただの闇だった空間が、またどこかの安定した場所になっていた。考えなくても、それは、もうなくなってしまった家の、父の書斎だとわかった。父は書斎にこもりきりだったけれど、ドアを開けてみていると、十回に一回くらいは気づいてくれた。そして、おいで、と困ったように笑った後、膝に抱き上げてくれたものだった。
「おとうさん…?」
 もう膝に抱いてもらうような子供ではないのだけれど、呆然と、エドワードは瞬きする。父は、そんな娘に目を細めて、「おおきくなったね」と笑った。
「…うん。…おとうさん、いままで、どこに…」
 質問に、父は困った顔をして首を振った。答えられないって、どうして、と眉根を寄せれば、父は大きな手でエドワードの頭をなで、肩を引き寄せた。
「エド。おまえだけは、ちゃんと無事に帰してやるからな」
「え?」
 そして決意のように言われた言葉に、エドワードは驚いて目を見開いた。



 薔薇園の前で、一番先頭に立っていたのはアルフォンスだった。
「あいつらは賢者の石といいました。賢者の石というのは、錬金術の至宝です。一説には不老不死をもたらすともいわれています」
 一同に説明しながら、少年は落ち着き払った態度で薔薇園の内部をくまなく見て回った。
「…やっぱり、結界が張られていますね。陛下、一大事です。一部を破壊してもよろしいでしょうか」
「許す」
「ありがとうございます。すいません、誰かこの柱の、この印を壊してください」
 アルフォンスが示したのは、柱に穿たれた複雑な紋様だった。その声に従って、背後から兵士がひとり、二人歩み出て柱を倒す。薔薇園はそれで一部壊れるかと思われたのだが、あにはからんや、壊れたのはもっと別のものだった。
「な…」
 確かにそれまではそんなものは見えていなかったのに、柱を倒されたことで、一気に、急に視界が広がった。そんな馬鹿な、と誰もが目を疑ったが、アルフォンスだけは冷静だった。
「…行きましょうか」
 そこに現われたのは、地下まで続く階段だった。

 階段を下りながら、少年は背中で説明を続けた。
「…ボクの父は、錬金術について長らく研究していました」
「錬金術?」
「はい。…陛下は、母と父が結婚した時と、それからと、父が変わらないとお思いになったことはありませんでしたか?」
「…どういう意味だ?」
「…。父は、元々この国の人間ではありませんでした」
「そうだな。それは知っている。だから私の父も反対したんだが、あの時ばかりは姉は頑固だった」
「彼は、ここではない、今は滅んだ国で生まれました。そして、錬金術と出会い、不老不死の体を得ました」
「…不老不死?」
 そんなものが?と胡散臭そうな顔で繰り返した女帝に、振り返ることなくアルフォンスは頷いた。
「ですが、この国には連中が…ウロボロスがいました。…陛下。母が父との結婚を許されたのは、ウロボロスが父を監視するためでもあったのです。多分、恐らく」
 これに眉をひそめたのはロイだった。
「なぜ監視する必要があったんだ。そもそも君たちの父上はいつからこの国に?」
「さあ…随分な昔だといってはいましたが。けれど、真剣に研究を始めたのは、ボクらが生まれてからだったと父は言っていました。…不老不死ではなく、普通の人間になって、母と一緒の時間を生きたいと」
 子供の死を見取るなんて、したくはないからね、と。
 アルフォンスがぽつりと言った台詞に、オリヴィエとロイは黙り込む。まさか身近にそんなことが起こっているとは夢にも思っていなかった。
「…連中はこの国の裏に隠れて、賢者の石を作っていました。それは昔からのことだったようです。しかし、活発になったのは、父が現われてからだった。何しろ父は成功した不老不死の実例だったわけですから。…足元、気をつけてください。滑りますから、ここ」
 かつかつと入っていくにつれ、蝋燭の火が頼りなく揺れた。
作品名:帝国の薔薇 作家名:スサ