帝国の薔薇
「……。それなら後継者になど選ばれなければよかったのに」
つい批難するようなことを口にしてしまってから、ロイは、自分の言動に目を瞠った。まるで無意識だったので。そしてそれを言われた女帝はといえば、瞬きした後、意地悪げに目を細めた。
「貴様、惚れたか?」
ロイは呆れた顔を隠しもせずに女帝を見た。なんてとんでもないことを言い出すのかと。エドワードは少なくとも今のロイにとっては、頑張っている妹のようなものであって、それ以上でも以下でもないのだ。どちらかといえばかわいいと思っているし、力の及ぶ限り守ろうとも思ってはいるが、それだけだ。まして惚れたはれたのと、考えるだに馬鹿馬鹿しい。
目の前の男の表情から余す所なく読み取って、それでも女帝は笑い飛ばした。
「まあ、それでもいい。どの道、私も、生半可な男にあれをくれてやる気はないよ」
何しろ、と女帝は言った。
「あれは、わたしのかわいい薔薇の花だからね」
自分こそが大輪の薔薇のようにあでやかに笑いながら、この国の歴史に類を見ない勇猛の女帝が堂々と言うのに、ロイは今度こそ臣下の礼を取った。