こらぼでほすと 休暇4
ふたりも、親猫の傍に居座っている必要はないので、レイは居間で待機するつもりだ。論文の準備で、やることはいろいろとあるので、店が暇な時は休むつもりもしていた。そう説明すると、親猫は、「そうか。」 と、頭をぐりぐりと撫でて横になった。
「そうだ、レイ。八戒と悟浄が出勤だから帰った。」
ティエリアは、親猫の手からコップを貰い受けつつ、居間のほうでのことを話す。そろそろ、みな、仕事だ。
「じゃあ、俺は居間のほうで資料を読む。後は任せる。」
「わかった。ニール、ヒエピタ貼ります。」
文机に置かれているヒエピタを一枚取り出して、ニールの額にペタリと紫子猫きは貼り付ける。それを確認して、レイは器を下げた。
「ほら、横になってください。」
「はいはい。」
「着替えは? 」
「いや、いいよ。」
「では、おやすみなさい。」
で、紫子猫は、そのまま携帯端末を取り出して、親猫の傍で待機の構えだ。そんなに重病じゃないんだから・・・・と、親猫は呆れる。
「監視していないと、あなたは危険だ。」
「何もしないって。おまえも、居間のほうへ行ってテレビでも見て来いよ、ティエリア。」
「そうはいきません。俺の本来の降下理由は、あなたの健康状態の確認だ。」
「・・・・・ティエリアさんや、おまえさんの本来の休暇目的は、リフレッシュじゃなかったか? 」
「それは名目上だ。あなたが回復したら、キラたちと屋内プールへ行く約束をした。それを遂行するためにも、大人しくしていてもらいたい。」
「俺は寝てるから、おまえさんだけ行って来い。」
「何を寝とぼけた事を・・・・・あなたは、待機所の管理人だ。俺をリフレッシュさせてもらわなければならない。それが、あなたの役目です。」
「はいはい、わかったよ。」
歪曲な言い方だが、紫子猫が心配しているのもわかるから、親猫も苦笑する。せっかくの休暇なんだから、目一杯構え、と、言いたいらしい。
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そろそろ、坊主の機嫌は急降下だ。サルは、本山の幹部連中に拉致されて帰ってこないし、書類仕事は捗らない。そうなってくると、タバコの量も寝酒の量も鰻上りだ。本日のノルマをクリアーして、部屋に戻ると、珍しいのが来訪していた。
「何か用か? ご先祖様。」
「俺は、おまえと血の繋がりはねぇーよ。悟空は、明日あたりに送ってくる。いい酒が手に入ったから飲もうと持参してやった。」
ドンッッと机に置かれたのは、こちらの酒だ。そういうことなら付き合うか、と、坊主もグラスを手にして、卓の対面に陣取った。少し黄色い色のついた透明な液体を、グラスに満たすと、どちらも口につける。
「女房を貰ったんだって? 」
「ああ?」
「うちの子も、えらく可愛がってくれてるんだってな。悟空が、そう言ってたぞ。」
「あいつは、世話焼きなんだ。誰だっていいんだよ。・・・・・金蝉、おまえまで、まさか、本気で信じてんじゃねぇーだろーな。」
「悟空が、俺のおかんとおとんは仲が良いって言うんだから、信じるしかないだろう。」
ノンケの破戒僧が、男を嫁に貰った、と、言われれば、金蝉だって確かめたくもなる。なんせ、そこの養い子は、自分とっても大切な養い子だからだ。おかしなことになっているなら、即刻、引き取りたいとも考えている。
「まあ、いい相手だぞ。世話好きで、至れり尽くせりの世話をしてくれるからな。料理の腕も悪くないし、サルにも優しい。欠点は、男ってとこだけだ。」
「ほおう、三蔵が惚気るか? おもしろいな。」
「事実だ。それより、おまえ、暇なら、俺の仕事手伝え。」
本山上層部の事務仕事専門の金蝉なら、書類のチェックはお手の物だ。普段はやっていない三蔵とでは処理能力は雲泥の差だ。そして、ついでに言うと、本来は三蔵の上司で、本山の人外のほうの方だったりするのだが、三蔵は、そういうことには気にしない。もう今更、敬語で話すとか態度を謙るなんてのはやるつもりは微塵もない。いろいろと因縁があって、上司とかいうより親戚の人ぐらいの感覚だ。
「適当にサインしとけ。俺まで廻ってきて、問題なければ通してやる。」
「問題があったら、どうすんだ? 」
「書き直しておいてやる。それでいいだろ。」
もちろん、上司の金蝉のほうも部下とか奴隷とは思っていない。気分的には身内の感覚だ。奴隷と思っているのは、どっかの元帥様だ。
「頼む。俺には、ああいう仕事は向かねぇーんだ。いい加減、俺を、この寺院の統括者にすんのはやめねぇーか? 」
「そうすると、悟空と会えなくなるから却下だ。」
そう、金蝉たちが三蔵を、ここの統括者として離さないのは、そういう訳がある。そうでもしないと悟空が、本山へ戻ってくることはないからだ。だから、三蔵が、どんなに、この寺院で問題を起こそうとクビになることはない。
「返してやろうか? おまえのサル。」
「うちのが帰りたがったら奪いに行くが、今のところは、そっちの暮らしが楽しいらしいからやめておく。・・・・・そのうち返してもらうことになる。」
「はんっっ、せいぜいが五十年だ。借りておくさ。」
三蔵は人間だ。老衰になるまで、サルと付き合ったとしても、時間としては、それぐらいのことだ。対して、人外の金蝉たちは、これまた人外の悟空と延々と付き合っていける。だから、借りておく、と、三蔵も言う。自分には、悟空の寿命なんて付き合えるわけはない。
「くくくく・・・・減らず口だな? 素直に返したくないと言えないか? おまえは。」
「言わないな。」
「まあ、貸しておいてやるさ。それで、女房は美人か? 」
「西洋美人だが、死にかけだ。」
「はあ? 」
人外の上司に、女房の身体について簡単に説明すると、三蔵も忌々しそうに舌打ちする。治療薬も治療方法もないのだ。人間の技術では助かる見込みはないのは事実だ。今のところ、悪化を緩めるクスリで進行を止めているので、今すぐ、死ぬことはない。
「同情したじゃねぇーよな? 」
「同情じゃない・・・・あれがいないと、俺の世話するのがいなくなって面倒なだけだ。」
「それを惚気と言うんじゃないのか? 三蔵。そんなに気に入ってんなら、見てみたい。」
「来なくていい。特に、天蓬は来させるな。」
どっかの元帥様は、こんな楽しい話題に乗らないわけがない。悟空から日常のあれこれを聞き出していたから、遠征する気満々のはずだ。
「あれが止まると思うか? 諦めろ。」
「おまえのほうが地位は上だろ? 仕事でも与えて身動きできなくなるくらいのことはできんだろーが。」
「そんなもの、捲簾に押し付けて遠征するに決まっている。」
「ちっ、使えねぇーな、金蝉。」
「無理言うな。管轄が違うんだから、引き止めるのは不可能だ。」
どうやら、本山の三蔵の上司ご一行様は、そのうち、特区へ遠征してくるらしい。うぜぇーとグラスを飲み干して、金蝉の前に置くと、それに酒を注いでくれるので、また飲み干した。
「金蝉、今夜、俺と熱い夜を過ごさないか? 」
「死んでも御免被る。」
いい声で口説きモードが爆発しても、三蔵の上司は、きっぱりはっきりと拒絶した。
作品名:こらぼでほすと 休暇4 作家名:篠義