こらぼでほすと 休暇4
寺の女房は、二日ほどで復活した。とはいっても、外出禁止は続いているので、買い物は、寺に居着いているその他の人間がやっている。スーパーのチラシをチェックしてメモされたものを手にして、シンとレイがスーパーへ出かけた。
「プールの予定は、どうなったんだ? シン。」
「この土日あたりって言ってたぞ。たぶん、悟空が、そこいらで帰って来るだろうからってさ。」
ティエリアの休暇は、残り五日だ。そして、悟空が戻ってくる。入れ替わってくれれば、親猫も落ち込みの被害は少ない。なんせ、なんでもかんでも用事を言いつける坊主が帰ってきたら、ゆっくり考える暇はないからだ。
寺のほうには、虎が顔を出していた。ラボでの作業が終わり、その後始末も一段落ついたから、虎も休暇を取った。一週間ばかり、バカンスに出かけるらしい。家で休養していると、気分的に落ち着かないので、特区の外へ出かけるのだと言う。まあ、そんなわけで、久しぶりに親猫の様子を確認しに来た。
「それ、ワーカーホリックって言うんじゃないんですか? 虎さん。」
「気分転換といえ、ママ。家だと、近過ぎて気が鎮まらないんだ。」
どうも、家にいると、いろいろと仕事の事が浮かんで、ちょいとラボまで行ってこよう、なんてことになる。どこかのリゾートへでも行けば、さすがに、そこでは、そういうことに考えが至らない。
「で、どこへ? 」
「特区から千キロほど離れた南の島だ。アイシャとのんびり昼寝を楽しんでくる。」
「いいですね。ゆっくりしてきてください。じゃあ、店の手伝いは、俺が。」
「ぼちぼちとサボりながら手伝いしておいてくれ。」
「了解です。・・・・ラボは、ダコスタが管理するんですか? 」
「ああ、鷹さんとダコスタ、ハイネあたりで、ローテーションだ。おまえは行かんでいいぞ。」
「わかってますよ。」
適当に、皆、休暇は取ることになっている。虎の次は、ダコスタ、次に、ハイネ、鷹と続く。ラボやエターナルの管理をしている面々は、穴は開けられないから、順番だ。キラととアスランは、来月のお盆に休みを取ることになっている。『吉祥富貴』の正社員は、自分たちの都合とローテーションを考慮さえできれば、いつ休んでもいいということになっている。今のところ、こちらに飛び火してくる騒ぎはないから、今の内に、と、予定を詰めている。組織が再始動すると、休みどころか、店を休業するほどの忙しさになるはずだからだ。
「おまえも休みを取ったら、どうだ? ママ。」
「三食昼寝付きの専業主夫の上に、休みまで取ったら、三蔵さんに追い出されますよ、虎さん。」
「三食昼寝付きの専業主夫? その割に忙しそうだがな? 」
「そうかなあ。昨日まで、部屋でだらだらしてたし、その前は、ティエリアと遊んでたし・・・・・あんまり真面目に働いてませんけどねー。ちょうど、今が休暇中って感じかな。」
「休暇って、おまえ、熱中症でダウンしてたのを休暇認定するのか? 」
「何もしてませんから。」
「おまえのほうが、ワーカーホリックだろ? たまには、紫子猫と、どっかのホテルへ泊まって、家事から解放されたら、どうだ? 」
「いや、留守番しないと。それに、家事からは解放されてます。レイが、ほとんどやってくれてるんで。」
宣言通り、レイは親猫の看病と寺の家事一切を引き受けた。ティエリアは手伝っているが、ほとんど、レイがやっている。勉強の気晴らしになるから、と、親猫がやろうとすると、先にやってしまうのだ。今も、シンと買出しに行ってくれている。
「レイは、おまえさんに随分懐いたな? 」
「何も、これといってはしてないんですがね。」
存在自体で和む、と、レイは言うので、ニールのほうも、特別に何かするということはない。そういうものがなかったというので、ごく普通に家族として扱っているだけだ。
「レイには、いいことだろう。あいつは、ザフトから出たことがなかった箱入りだからな。」
「うちのも、みんな、そうですよ、虎さん。」
マイスター組もフェルトも、そうだ。家庭的なものを、なるべく感じさせてやりたい、と、それを知っているニールは思う。それは大切なものだと思うからだ。
そんなしみじみとしたことを話していたら、風呂のほうから、どんがらがっしゃーんと派手な音が聞こえた。慌てて、そちらに走ったら、ティエリアがホウキを片手に、洗面所でひっくり返っていた。
「ティエリア? 大丈夫か? 」
転がり落ちたのか、折りたたみ椅子が風呂場のタイルに転がっている。なぜ、洗面所で転がっているんだ? と、抱き起こした。
「あのクモの巣を取ろうとしたんだ。」
洗面所の天井の片隅に、ちょろりとクモの巣が張っている。それを排除しようとして足を滑らせたらしい。
「怪我は? 」
「骨折はしていない。これだから、地上は嫌いなんだ。重力が邪魔だ。」
いたたたた、と、ティエリアはお尻を擦っている。上手い具合に尻から転がったから怪我はないらしい。ただし、ホウキを振り回したらしく、洗面所のものは、バラバラに散らばっている。
「怪我してないならいいさ。」
やれやれ、と、親猫は紫子猫を立たせて、外傷とか打撲を確かめる。大した事はないとわかったら、とりあえず、折りたたみ椅子を仕舞って来い、と、命じた。
「ホウキは置いて行け。」
倉庫から出してきた椅子を片付けさせて、とりあえず、ニールが、ちょいちょいと天井のクモの巣をホウキで払った。身長差が、20センチ近くあるので、紫子猫には届かなくても、ニールには楽勝だ。
「ここ、片付けますんで、虎さんは居間へ戻っててください。」
散らばっているタオル類とか、ひっくり返っている風呂場用品を、これまた、派手に倒れているラックに収納すべく親猫は動き出す。洗面所の入り口に、ヤンキー座りして、片付けている親猫に声をかける。
「なあ、ママ。これで、のんびりしていると言えるのか? 」
「してますよ。ティエリアが、あんなことを思い着くなんて感動もんですよ? 掃除のスキルが断然、上がってますからねー。」
ふんふんと鼻歌なんぞ歌いつつ、親猫は、さくさくと片付けている。そこか? そこに感動するって、どんだけ紫子猫は、家事能力ないんだよ? と、ツッコんだら、「あるわけないでしょう? 宇宙育ちなんだから。」 と、返って来た。
「もしかしなくても、組織にいた時も、こういうのは、おまえの担当だったのか? 」
「掃除や洗濯は、各人だったし、俺がやってたのは、おやつ作ったり、部屋の片付けしてやったりぐらいです。」
「それを、ミッションの合間にやってたとしたら、確かに、今は優雅な専業主夫だな? 」
マイスターの本来の仕事をこなしつつ、そんな雑用もしていたのなら、寺の留守番ぐらいだと、休暇みたいなものになるのは理解できる。
「でしょ? 」
あははは・・と笑いつつ、ティエリアが戻るまでに、そこは片付いた。割れたものもないので、元の状態に完全に修復された。
作品名:こらぼでほすと 休暇4 作家名:篠義