こらぼでほすと 休暇4
相手が誰だかわかっている悟浄も、傍耳を立てている。悟空のおかんについての情報は、坊主たちが本山へ出向いて、すぐに連絡を受けたから、ちゃんと説明しておいた。その情報料として、さすがに護符は無理だったので、薬だけは用意してくれたらしい。本命の酒については、宅急便で寺へ届くので、早めに引き取れ、とのことだ。そうしないと、坊主が飲んでしまう危険がある。
「できれば、秋以降に・・・・・ええ・・・・夏は・・・ああ、悟空が言いましたか。・・・はい。」
もちろん、遠征してくる時期も、悟空に釘を刺されて、当初の予定通り秋以降になるとのことだ。お盆とフェルトの里帰りで、夏は忙しいから遊べない、と、悟空が一蹴したらしい。
「じゃあ、お待ちしてますよ。こちらにも、いい酒がありますんで。・・・ええ。」
楽しみにしています、と、相手は連絡を終えた。やれやれ、と、八戒も息を吐く。すぐに、メールも着信した。
「なんだ? 」
「ニールの薬の飲ませ方というか、注意事項というか、そういうのらしいです。」
坊主に言っても聞かないし、悟空に言っても忘れそうだから、一番、実務に携わるだろう八戒にメールをしてきた。
「くすり? おい、マジでか? 」
悟浄も、薬の持ち出しは厳しい規制があることは知っている。それが、八戒が、頼んだだけで用意してくれることにびっくりだ。
「まあ、あの方たちはやりますよ。別に、今更、何も怖いものなんてないでしょうからね。・・・・・くくくくくくく・・・・・・三蔵って、いつか仙人か妖怪にされちゃいそうですね。あはははははは。」
「てか、あいつら、ほんと、三蔵に甘いよな? それで、今日、到着すんのか? 」
「ええ、朝一番で出たそうですから、今夜には戻るでしょう。アスランに連絡しておきましょう。それと、寺にもですね。」
間に合ってよかった、と、八戒は、寺とアスランにメールを送る。ティエリアが帰るまでに戻ってきて欲しいとは考えていたのだが、仕事の進み具合で間に合わないかもしれないとは思っていた。デスクワークが大嫌いな三蔵は、なかなか仕事が捗らないからだ。
「ちょうどよかったじゃねぇーか。明後日、プールって言ってたからな。」
土曜日に、歌姫様に関係のあるホテルの屋内プールを借り切った。紫子猫が月曜日に帰る予定だったから、これでちょうど騒がしく入れ替われる。
「そうですね。とりあえず、メールはしましたけど、寺へ顔を出しておきましょうか? 悟浄。」
「そのほうが安全だろうな。」
出勤前に、ちょろっと寺へ顔は出すことにした。ただいま、寺はレイが家事を引き受けている。ニールは回復はしたのだが、たまには、俺が世話をしますっっ、と、レイが張り切っているので、ニールも手が出せないらしい。レイも、そこそこ家事はできるのだが、病人食とか、療養食なんてのには詳しくないから、八戒が指導しているし、トダカも適当に顔を出している。
「ようやく、ママニャンの休暇も終わりか。」
寺に坊主とサルが戻れば、ゆっくりしている暇はない。なんだかんだと用事を言いつけられるし、サルの全身胃袋を満たすには、食事もものすごい量を作ることになる。今までのレイとティエリアとハイネの分だけとは、雲泥の差だ。
「あれを休暇とは呼べないと思いますよ? 悟浄。どっちかと言うと、里帰りしている時期が休暇ですね。」
「それより、俺らは、どうする? 」
「お盆休みだけでいいんじゃないですか? どこか行きたいですか? 悟浄。」
「あなたとなら、どこまでも? なーんっつて。」
悟浄のホストトークなんてものは、八戒はスルーだ。いちいちツッコミするのも面倒だからだ。
「お盆は混みますから、できれば避けたいんですが? 」
「それ、ゴールデンウィークにもおっしゃいましたよね? 女王様。」
「それで、スルーして、悟浄は、母の日あたりに僕と駆け落ちしたじゃないですか。」
「今回も、そうするか? お盆は、ダラダラ引き篭もって、外して温泉? 」
「湯布院に興味があります。」
「やっぱり? 俺も、トダカさんから聞いてさ。ちょっと行ってみたかったんだよな。」
「じゃあ、予定はお任せします。」
「あいよ、任されるぜ。」
資料を探すから本屋にも寄ろうぜ、と、悟浄は動き出す。できれば、露天風呂つきの部屋がいいですねーと、八戒も立ち上がる。沙・猪家夫夫のいちゃこら休暇は、九月になりそうだが、どっちも楽しそうに微笑んでいたりする。
坊主たちが、寺に辿り着いたのは夜のことだ。なんせ僻地にある本山から、最寄の地方空港に出て、さらに、国際線のある空港に飛んで、そこから特区行きに乗り換えなんてことになるので一日仕事だからだ。
「おかえりなさい。」
出迎えられるというのも、なんか妙に嬉しいもので、悟空は、ただいまぁーと元気に挨拶している。
「生きてたか? 」
「生きてますよ。・・・・食事は?」
「軽く食うぞ、それから酒。」
「はいはい。」
ある程度、予想はしていたから、準備はしてある。本日は、ウィークデーの花の金曜日で、紫子猫を除いて、他は店に出ている。先に風呂で汗を流してください、と、言われて、坊主とサルは、そのまんま風呂へ消える。
荷物は、ほとんどない。後から明日か明後日くらいに届くだろう。そこからが、また洗濯大会だが、夏は、それほど困らない。晴天であれば、すぐに乾いてくれるからだ。
「ティエリア、運ぶの手伝ってくれ。」
居間でテレビを見ていた紫子猫に声をかけて、寺の女房のほうも食事の準備をする。軽く、と、言っても悟空の場合は、三人前は必要になるので、そのつもりで用意はしていた。たぶん、和食に飢えているだろうから、白いゴハンと出し巻き卵、煮物、刺身と、悟空にはオロシハンバーグなんていう辺りだ。こちらも相伴するから、ティエリアにはブドウを用意した。
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さっと汗を流してきた坊主とサルが戻ってくると、きゃっほーい、と、悟空が卓袱台を見て喜んでいる。
「そうそう、こういうの食いたかったんだよなあ。さっすが、ママ。」
「精進料理だって言ってたからさ。他のリクエストは明日、受け付けるぜ。」
「明日は、プールだから晩飯はホテルのバイキングだと思うよ、ママ。けけけけけ・・・・バイキングで元を取るぞっっ。」
悟空にかかれば元を取るどころか、採算割れしそうだが、そこいらはスルーだ。てか、バイキングの料金は、おそらく歌姫様持ちになるだろうから、元々タダなのだ。
「予定通りでしたね。お疲れ様です。」
きちんと、焼酎のサイダー割りきゅうり入りが準備されているし、大盛りの枝豆もある。気が利いているというか、これだから、この女房がいないと面倒になるというのが、坊主の本音だ。以前は、帰っても、誰もいなかったし、何もなかったからだ。
「できたのか? 」
「ええ。大収穫でした。悟空、これ、うちの枝豆だ。」
すでに、昨日、第一回目を、留守番で食べたが、なかなかマメが膨らんでいておいしかった。ティエリアも気に入ったのか、せっせと枝豆を剥いていたほどだ。
「すげぇー。いっただきまーすっっ。」
作品名:こらぼでほすと 休暇4 作家名:篠義