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ぐらにる 流れ 遠征2

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「・・・もう・・・」
「ああ、一緒に行こうか? 」
「くっっ。」
 蕩けるように身体が弛緩して、彼の身体に持たれこむ。背後から、キスの雨が降ってきて、また、心地よい感触に、さらに蕩けていくのをやめられない。くるりと、身体を捻って、向きを変えて、こちらからもキスを仕掛ける。
 そのうち、頭がぼおっとしてきた。ほら、こうなるから風呂はやめろ、と、言ったのだ。
「・・・・だめ・・・・」
「・・・・逆上せてしまったな。」
 彼も、ぐったりと浴槽の縁に倒れこむ。ふたりして、ここで沈没するわけにはいかない。緩々と手を伸ばして、シャワーの温度を下げて体温を下げるように降り注がせた。ざあざあと流れる中で、息を整えると、彼も、ふうと息をつく。
「・・・俺は腹上死なんて、情けないことは・・・ごめんだ・・・」
「・・・確かに・・・それは情けないな。・・・では、とりあえず移動しよう。」
 落ち着いた彼は、浴槽から立ち上がり、シャワーを止めると、新しいバスタオルで俺を隅々まで拭いてバスローブを着せ掛けて運んでくれた。すでに、ベッドメイクは終わっていて、真新しいシーツに降ろされる。
「食事はできるか? 姫。ここまで運んだほうがよければ、そうするが? 」
「ちょっと休んだら、動ける。」
 では、私も着替えることにしよう、と、寝室から出て行った。まず、俺のほうの世話を優先したので、彼は全裸のままだったからだ。
・・・・ったく・・・
 頬が勝手に緩むのを諦めて、身体を伸ばした。真新しいリネンの匂いは、心地よくて目を閉じる。




 姫が魘されるところは、あれ以来、見たことがない。私の褥にいる限りは、よく眠れるのだと言う。
・・・・だが、それは、逆を返せば、きみは、私の傍にいない時は魘されている、と、告白しているのだよ? 姫・・・・・
 忘れられないほどの強烈な記憶だから、それを打ち消すほどのものが必要なのだろう。普段は、どうしているのかと心配になる。姫を、私の傍に留めておけるなら、そうしたいのは山々だが、それをやったら、姫は消えてしまうだろう。私は、姫の居場所を知らない。唯一接触できる場所は、遠過ぎて滞在していることはできない。平和になれば、と、考えもするが、それは難しいことも理解している。だから、姫と一緒に暮らすことはできない。
 バスローブをひっかけて、寝室に戻ったら、姫は猫のように丸くなっていた。ただ、左手だけがベッドの中央へ向けて伸ばされている。
 その手を持ち上げて、口付ける。きみを隠してしまえたら、どんなにか私は幸せだろう。もしかしたら、空すら捨てられるかもしれない。
 だが、実際はできない相談だ。私には私の仕事があり、姫には姫の仕事がある。どこかへ隠しても、姫の組織から追跡はされるに違いない。
「・・・ん?・・・・」
「姫、少しだけでも食事しないか? 」
「・・うん・・・」
 ぼんやりと開いたピーコックブルーの瞳は、穏やかに細められる。亜麻色の髪を梳いて、それから抱き上げた。姫は、何も言わずに、私に身体を預けてくる。
・・・・また、戦争が始まれば、きみも私も忙しくて逢えなくなる。もし、私が斃れたら、きみは嘆いてくれるだろうか・・・・・・
 世界は統一に向かっているが、反政府組織も、それと同時に台頭してきた。だから、私が無事に生きていられるかどうかはわからない。また、CBが現れれば、カスタムフラッグで対抗しうるものなのか、それもわからない。
「姫? 」
「ん? 」
「いつか、この逢瀬もできなくなるかもしれない。」
「ああ、そうだな。」
「だから、逢える間は、できるだけ訪ねて欲しい。きみが来なくなったら、私は空にしか関心を示さなくなる。」
「・・うん・・・」
「きみの安眠を守りたいと望んではいるが、永遠とは続かない。・・・・それが、私には悲しい。」
「・・・・いつかか・・・案外、近いかもしれないな? 俺が来なくなったら死んだと思ってくれ。・・・・もう安眠を守ってもらう必要はないってことだから、あんたは悲しまなくていいんだ。その時までは、逢いに来るよ。・・・それでいいだろ? 」
「しかし、私だって、軍人だ。」
「そうだな。・・・・逢いに来て、あんたが居なかったら、少し困るな。」
 姫は、そう言って笑った。少し寂しそうな表情をして、私の腕から立ち上がる。
「まあ、その前に逢いに来る暇はなくなるだろうから、あんたがいなくなったことを知るのは、ずっと先だろうな。・・・・生きてたら、また来るさ。それで、居なかったら墓まで叱りに行ってやるよ。『俺の安眠を返せ』ってさ。・・・・それでいいか? 」
「では、私はきみの墓に文句を言いに行くことにしよう。真っ白な花をたくさん捧げて、『愛している』と何度も囁く。」
 どちらもわかっている。それは無理なことだ。どちらも、生き残れる確率は低いのだから、どちらも知らないままに終わるだろう。それでいいのかもしれない。
「愛している。きみだけだ。きみが居れば、私は空を捨てることも厭わないだろう。」
「・・・うん・・・だが、あんたは捨てなくていい。俺は、あんたと居るつもりはない。」
 姫は、これにだけは流されてくれない。いつも同じ拒絶を返す。空を飛ぶことが私の生き甲斐であることを、延々と語ったことがある。「あんたは、空のことを話すと生き生きしている。」 と、姫は呆れていた。私から空を奪うなんてことはできないと思っているのだろう。
 リビングのテーブルには食事があった。ちゃんとホットウォーマーで温められているので、そのまま食べられる。
「食べさせようか? 」
「自分で食べる。」
 すっかりと窓の外は闇に包まれていた。丸一日、私は姫を貪ったことになる。ビリーからの連絡で五日の滞在だと聞いているが、ここからの移動も考慮すると、実際に滞在できるのは、後三日だ。だが、さすがに三日間、姫とずっと過ごすことはできない。
「明日からは、ちゃんとしろ。そうでないと帰る。」
「わかっている。・・・・しかし、姫。」
「適当にしてるさ。」
「ガイドマップは?」
「観光するつもりはない。」
「退屈ではないか? 」
「ブラブラはするさ。俺は観光地には興味がないんだ。」
「もし、よければ、本部の観光コースを予約できるのだが、どうだろう? 」
 それなら、休み時間に案内もできると言おうとしたら、睨まれた。それは、やりたくないらしい。
「あのな、ユニオンのエースパイロットさんよ。俺は、あんたのとこなんて鬼門だってーの。だいたい、それって・・・あんたが案内なんてしてたら、バレバレだろ? ちっとは考えてモノを言え。」
 ブラックマーケットの人間を本部へ案内しているなんていうのは、マズイということだろうと思ったら、続けた姫の言葉に笑った。
「体調を崩したヤツがさ、いそいそと知り合いを案内なんてしてみろよ? サボったと思われるだろ? だから、そういうことはしないほうがいい。」
 姫は心優しい。私のことを気にしてくれているのだ。その言葉が嬉しいと思う。彼からすれば、本部への侵入は利益になるはずだ。だが、私が不利になるかもしれないと思うから断る。こんなことで、彼は大丈夫なのだろうかと心配になる。
作品名:ぐらにる 流れ 遠征2 作家名:篠義