綴じ代(とじしろ)の奥
墜ちていく父の姿を見て、これで前に進めるのだと思った。スピーカーからは砂嵐のようなノイズの中で父の声が途切れ途切れに響いていたが、私はもはや対話など望んではいない。幼い日の私は純粋で、若い日の私は無力だった。力を手にした今は違う。私を捕らえていた頸木はもはや存在しない。
確かに軍人として尊敬できる男だったが、それを失えばただの薄汚い裏切り者だった。あなたは軍規に従って母を殺したのではなかったのか。なんという裏切りだろう!
背信を重ねた男が汚辱にまみれて死んでいく。私はやっと自由になった。
作品名:綴じ代(とじしろ)の奥 作家名:アレクセイ