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さきさかあつむ
さきさかあつむ
novelistID. 18695
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my fair little boy

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 ジェレミアが一瞬だけ渋い顔をしたのが視界の端に見えた。けれどルルーシュはそれは見なかったことにして、スザクの頭を撫ぜてから簡易キッチンに向かう。皇帝に即位して一番はじめにした我がままが、政務室から程近い部屋の、ティータイムの準備のための簡易キッチンを使う許可をとりつけたことだった。料理が息抜きと気分転換にちょうどいいと気づいたのは、もうずいぶん前のことだ。ルルーシュ自身、食べることはむしろ好きな方だ。けれどそれよりも、美味しい、といって食べてくれる相手がいたことが大きかったのかもしれない。手伝う、と後をついてきた咲世子にミルクティーの準備を頼んで、ルルーシュは一人でキッチンに立つ。
 スザクは、見た目にも凝った甘いお菓子よりも、シンプルで素朴なおやつが昔から好きだった。特に、ルルーシュがまだ大して料理のレパートリーもなかった頃から時折作ってやっていたパンケーキがいたくお気に入りだった。せっかく手作りで食べさせるなら好きな物を食べさせてやりたい。
(シンプルですぐに作れるものだし、ちょうどいいだろう)
 ルルーシュは、棚と冷蔵庫を順番に開いて材料がそろっているか確認する。パンケーキの材料は基本的な食材ばかりだから、当然すべてが揃っていた。服を汚さないように、エプロンをして、受け口の袖を巻くってアームバンドで止めておく。
 完璧な出来に作りあがったパンケーキを持ってルルーシュが政務室に戻ると、ティータイム用のテーブルセットが整えられていた。スザクはその椅子のひとつに行儀良く座って待っていた。肩がかろうじてテーブルから見えて、足袋に草履を履いた足先が床から少し浮いたところでブラブラと揺れている。椅子もテーブルも、子供のスザクにはかわいそうなくらい全くサイズが合っていない。成長したスザクはブリタニア人とそう変わらない身長になったけれど、この歳の頃は確かに同じ年頃の日本人の子供と比べてもそれ程身長が高い方ではなかったから、大人用の家具が合うはずもなかった。
「さすがに手が届かないか。あちらのテーブルに場所を変えよう」
 ルルーシュはパンケーキの皿を持って、猫足のソファとローテーブルに場所を移した。このソファは寝椅子にも使える脚が短く座面が低いタイプだから、このスザクが座っても、きちんと床に足もつくはずだ。
「どうした? オレの隣に座ると良い。こっちならばクッションを引けばスザクにも届くようになるだろう?」
「こっちでもちゃんと届くし」
「その高さでは手が使いにくいだろう? 足だってきちんと床についていないじゃないか」
 ルルーシュには子供どころか、まだ妃の一人も居ないから、後宮にも本宮にも子供用の家具などどこにも用意されていなかった。だから、多少サイズが合わなくても、ガマンしてもらうしかない。
「……しかたないから、座ってやる」
 スザクは、座っていた椅子からひらりと飛び降りてルルーシュの隣に来ると、ルルーシュの座る隣に置いたクッションの上に、ぽふん、と気の抜けた音を立たせて腰を下ろした。
 ナイフとフォークで、子供の一口サイズに切り分けてやり、たっぷりと蜂蜜とバターも添えてスザクの前に差し出してやると、小さなスザクは目をきらきらさせてルルーシュを見上げた。
「いいにおいだ。これ、全部食べてもいいのか?」
「もちろんだ。お前のために作ったんだからな。全部食べてもらわないと困る」
 笑って言ってやると、子供のスザクはうれしそうに顔を輝かせ、両手を胸の前で合わせて、いただきます、のポーズをする。
「それじゃ、いただきます!」
 そうしてフォークを持つと、こくっとのどを鳴らしてパンケーキをほおばりはじめた。
 甘い蜂蜜の匂いと、子供特有のふんわりした匂いがやわらかく嗅覚をくすぐる。子供のスザクは、小動物のようにはぐはぐ言いながら夢中でパンケーキをほおばっている。やはり、パンケーキにして正解だったようだ。
 蜂蜜はスザクの好きな桜蜜だ。日本でしか採取されない貴重なものだが、スザクの従姉妹の好意で毎年日本からルルーシュに送られてくる。
 ルルーシュも、自分で食べる分のパンケーキにメイプルシロップを垂らし、バターを塗ってナイフを入れる。ふわりと漂うバニラシュガーと卵の香りといい、焼き加減といい、やはり完璧だ。ふかふかに焼きあがったパンケーキをナイフに刺し、メープルシロップを軽く吸わせてからルルーシュもパンケーキを口に運んだ。
(今度、スザクとナナリーにもまた作ってやるか)
 パンケーキは、やはり懐かしい気持ちにさせる。ナナリーもスザクも子供の頃から、こういう誰にでも作れるけれど本当に美味しく作るのが難しい料理が好物なことが多かった。また、三人で食べたら、きっと楽しいおやつになるだろう。
 ふいに扉をノックする音が鳴った。ルルーシュが、入れ、と扉の向こうに声をかけるとジェレミアが一礼して部屋に入ってくる。手には薄くはない紙の束を持っている。そうしてジェレミアはルルーシュの隣に座るスザクにはたと目を止めると、眉間を険しくしてスザクを叱りつける。
「枢木スザク! 騎士が主、それも皇帝陛下であらせられるルルーシュ様と同じテーブルにつくなど、無礼であろう!」
 子供のスザクは、パンケーキをフォークで一切れを刺して掴むと、えらそうにソファの背に体を凭れさせる。
「大きいルルーシュが座れってゆった」
 そうして子供のスザクは、物怖じせずジェレミアにそう言い返し、フォークの先端に刺さったパンケーキにかじりついた。
「その通りだ、オレが隣に座れと言ったんだ。それにこのスザクはまだオレの騎士ではない、ただの子供だ」
 普通のこの年頃の子供ならば、いかにも軍人然としたジェレミアを怖がりそうなものだが、このスザクは人懐こい子犬のように誰にも物怖じしない。
(そういえば、スザクはビスマルクと初対面の時にも全然怖がらなかったな)
 ルルーシュは視線の少し下にあるふわふわの髪をやさしく撫ぜた。指に絡まる栗毛はルルーシュの良く知る今のスザクの髪よりもさらにふわふわと柔らかくて細い。
「では、陛下に無礼のないよう、くれぐれも大人しくしているのだぞ」
 ジェレミアは渋面のままスザクにそう言い含めると、子供のスザクは、わかってる、と神妙そうな声で返事をする。それに満足したのか、ジェレミアはひとつ小さく頷いて、ルルーシュの机の上に書類を置いて出て行った。
 今も昔も、スザクがジェレミアに小言を言われるのは変わらない。
 これでもスザクは、日本の名門旧家の中でも最も古くから続く、京都六家の一角・枢木家の生まれ育ちだから、出すところに出せばキッチリと礼儀作法をわきまえる。ルルーシュが会った頃にはすでに武道も一通りこなしていたから、ガサツなしぐさのようでも最低限のマナーはきちんと守っていて、人に見せる、見られることが身に染み付いた動きだ。
「慌てなくて良い、ゆっくり食べろ。逃げていったりはしないから大丈夫だ」
 蜂蜜をたっぷりとかけすぎたせいか、唇がずい分つやつやとしている。口の横についたはちみつをナプキンで拭ってやると、子供のスザクはバツの悪そうな顔で、ありがと、と小さな声で言う。
「どうだ? 美味しいか?」
作品名:my fair little boy 作家名:さきさかあつむ