こらぼでほすと 休暇5
「水の中だけど、俺たちは皮膚からは吸収しないんだから、そりゃ、喉も乾くさ。」
バスタオルで、メガネをさっと拭いて、それから濡れてしまった髪も拭いてやりつつ、ニールは、そう説明する。そして、そのニールの髪を拭いているのが、トダカだ。
「娘さん、ちょっと横になって休みなさい。」
紫子猫を拭き終わると、トダカが声をかける。あんまり動いてばかりだと疲れるから、と、注意されると、ニールもデッキチェアに寝転んだ。
「ティエリアも昼寝するか? 」
「俺は、もう一度、戦ってくる。キラに一撃を浴びせないと気が済まない。」
キラは、ひょいひょいと逃げるので、まったく命中させられなかった。それが、紫子猫は悔しいらしい。
「あはははは・・・・よしっっ、俺の分も命中させてきてくれ。」
「了解した。キラを殲滅する。」
ものすごーく物騒なことを言っているが、誰もが微笑んで手を振るだけだ。ティエリアも、語彙が少ないのは、刹那といい勝負だからだ。第二回戦やるぞーと、悟空の声が響いて、年少組が、ぞろぞろと集合する。今度は、チーム分けをするらしい。
「ティエリアは素人だから、俺と組むぞ、キラ。」
「じゃあ、僕は、アスランをキープ。それと、レイを貰おう。」
「シン、おまえ、俺んとこな。勝負は、どうやって着ける? キラ。」
「左右の端に浮き輪置いて、それを奪取したほうが勝ち? 」
「うぉっしゃ、じゃあ、左右の陣地をじゃんけん。」
年少組は元気だ。陣地を分けて、そこへ陣取る。スタートの掛け声は、八戒が勤めた。で、邪魔をするのが、ハイネと鷹と悟浄だ。適当に、敵味方関係なく、放水する。
「おや、寝てしまったか?」
その騒ぎを眺めていたトダカが、背後を振り向くと、ニールは、くーすかと寝ていた。
「やんっっ、眠り姫だわ。」
マリューは、水が滴ったニールの顔を写メすると、アイシャに、「眠り姫ゲット。」 と、送りつけた。すると、あちらからは、「野獣ゲット。」 と、虎の寝顔が送られてきた。
「美女と野獣ね? 」
アイシャが美女ということだろう。さて、こちらは・・・・と、マリューは考えて、プールで大暴れている年少組を遠目に写して、「七人の小人? 」 と、送り返した。ひとり足りないが、まあ、そこは、スルーだ。
夜の食事も、ホテルのバイキングを食べて帰ってきた。食わなきゃもったいない、と、悟空が、最後にほとんどの皿を平らげたので、おなかがぽんぽこりんな状態だ。坊主も、夜の食事が用意されないから、渋々、バイキングにだけ参加した。
「悟空、ちょっと休憩してから風呂に入れ。」
風呂の準備に行こうとしたら、ティエリアが、俺が、と、たったかたーと廊下を走っていった。お風呂の準備は、ティエリアの仕事ということになっている。
「俺、明日からラボに泊まりだ。」
ハイネが軽く酔っ払いつつ、居間に転がる。ただ酒だから、と、がぶ飲みしていて、ちと酔っている。
「おまえさん、寝るなら脇部屋へ行け、ハイネ。」
「シャワーだけ浴びさせてぇーママニャン。」
「自力でやってくれ。」
「ママ、放置しとおけば、勝手に行きます。」
コーディネーターなので、酔ったところで冷めるのも早い。小一時間もすれば、復活するから、と、レイが言う。
「麦茶。」
そして、坊主の一言で、はいはいとニールは台所へ走る。結構、飲んできたので、もうアルコールは飲まないらしいが、喉は渇く。レイや悟空たちの分も、麦茶を用意して、ハイネにもペットボトルのミネラルウォーターを渡す。
「おなかは大丈夫なんですか? 三蔵さん。」
和食か中華がお好みな三蔵には、バイキングというのは、あまり食べるものがない。というか、いきなり飲んでたから、食べていなかった。
「茶漬けか、マヨメシあるか? 」
「・・・・茶漬けにしてください。おまえらはいいか? 」
「いらねぇー。」
「俺も入りません。」
年少組は、洋食主体のバイキングを、思う存分食べつくしたので、さすがに、もう入らない。テレビをつけて、適当なチャンネルをつけて、悟空も、ぐてーと横に伸びた。半日、プールで騒いだので、いい感じの疲労感だ。
「レイも寝転べよ。ここで遠慮なんかすんな。」
「じゃあ、遠慮なく。」
レイも悟空と一緒に伸びている。おまえの実家だと思えばいいじゃん、と、悟空が言ってくれたので、レイも気兼ねなく過ごしている。
簡単に用意して戻って来たニールも、その光景に微笑む。かなりレイも、素のままの顔をしているのが嬉しい。
「なんだ? おまえも食ってなかったのか? 」
用意したのは、二膳のお茶漬けで、冷たい麦茶を注いでいる。
「いや、脂っこいのが、さすがにしんどくて。」
「じじいーずじゃあるまいに。」
「あんただって洋食だから、アテになるもんしか食べてなかったでしょう。」
「おまえ、西洋人だろーが。それに、タダメシは詰めろ。」
「無理を言う。俺は、完全に採算割れですよ。あんたこそ、食べてきたらいいじゃないですか。」
「俺は、洋食は好かねぇー。おまえの茶漬けのほうがマシだ。」
「俺も、こっちのほうがいいんです。」
用意した漬物を合いの手にして、ふたりして、さらさらとお茶漬けを食べる。ぼんやりと、それを鑑賞して、ハイネもレイも悟空も口元が緩む。なんていうか、ほんと、仲睦まじいのだ、寺の夫婦。
「風呂のお湯が入ったぞ。」
お湯を監視していたティエリアが、戻って来た。さらさらと茶漬けを食べている夫婦を見て、こちらも、ほっこりと微笑む。
「ティエリア、おまえ、先に入れ。」
「いえ、俺はニールと入ります。悟空、行け。」
「俺いちばーんっっ。」
すかさず、ハイネが起き上がって、風呂へ走った。翌日、仕事の人間なので、誰も文句は言わない。
「ティエリアも食うか? 」
「いらない。」
「じゃあ、麦茶でも、どうだ? 」
「それは飲む。」
コップに冷たい麦茶を注がれて、それをコクコクと飲む。その間に、お茶漬けタイムも終わる。ぷかぁーとタバコを燻らして、坊主がテレビのリモコンを操作する。明日の天気なんてものを確認する。
「晴れだとよ。」
「洗濯日和だなあ。そういや、荷物が届きませんね。」
「明日か明後日には届くだろう。」
「だから、空港で出そうって言ったじゃん。やっぱ、寺からだと時間かかんだよ。」
出発する日に寺院のほうから宅急便を出してもらった。そこからだと、何箇所も中継地点があるから時間がかかる。
「腐るもんはねぇー。」
「まあ、そうだけど・・・・・醗酵してる気はするな。汗臭いのが、もっとすごいことになってるぞ。」
「洗えばいいだけだ。」
「三蔵、洗うのはママだぞ? 」
「レイもいる。」
坊主には、やる気は、まったくない。最初のほうのは、一度、洗濯してあるから後半のものだけだが、それでもすごいと思われる。
「しばらく浸け置きすりゃ大丈夫だよ。 悟空。」
「中に、八戒の土産あるんだ。」
「じゃあ、開けるのは、おまえさんがやってくれ。」
作品名:こらぼでほすと 休暇5 作家名:篠義