こらぼでほすと 休暇5
ニールのほうも、食べ終えて麦茶を飲んでいる。レイがお代わりをしようとして、近寄ったら、すかさず継ぎ足してくれた。
「明日も暑そうだから、そうめんでもするか。」
「うん、そういうのがいいな。ティエリアは、リクエストしないのか? 」
「ニールの作るものがいい。」
「そうめんだと茹でるだけなんだけどなあ。・・・・どっか行きたいところは? 買い物しておきたいものとかないのか? ティエリア。」
月曜日の深夜便で、ティエリアは帰る。それまでに、地上でやっておきたいことはないか、と、親猫は尋ねるのだが、紫子猫には、これといってない。
「強いてあげれば、ニールとゆっくりしたい。」
「昼寝とかでよければ。」
「それでいい。」
「買出しは? 」
「これといって頼まれていない。」
今は、各人が適当に地上に降下しているので、買出しも個人でやっているし、酒好きの戦術予報士が組織を抜けたので、重量級の買出しもなくなった。
「それならいいんだが。」
「どうせさ、ママは、明日はナマケモノだろ? うちでダラダラしてりゃあいいじゃん。そうめんぐらいなら、俺とレイでできるからさ。」
「仲間はずれにすんなよ、悟空。そうめんだけなんて栄養がないから、おまけもつける。」
「なら、俺、しょうが焼きとか食いたい。あとさ、ナスビの冷たい煮物。」
「ああ、あれは美味いな、悟空。ママ、ナスの煮物の作り方を教えてください。」
「いいよ。そろそろ、うちのナスも食えるだろうから、あれで作ろう。」
それでいいか? と、親猫に言われて、紫子猫も頷く。なんでもいいのだ。とりあえず、親猫とのんびりと過ごす一日でいい。しばらくは、そんなことをしている暇はないのだ。戻ったら、ロールアウトする機体の調整で忙しくなる。もしかしたら、何年か会えないかもしれない。なるべく、今年の最後か来年の最初に、一度、降りてこようとは思っているが、それも微妙だ。フェルトには、是非、そうしてやりたいと思っているので、自分が、その分の貧乏くじも引くつもりだ。
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・・・そして、その八つ当たりは、あれにする。・・・・・
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親猫が用意した白黒熊猫のヌイグルミに、その憂さはぶつければいい。こうやって、寺で元気にしていてくれれば、紫子猫は安心だ。絶対に生き残るのだ、と、決意も新たにしている。もういいか、なんて命を投げ捨てる真似をしたら、確実に、親猫も弱ってしまうだろうから、できなくなった。ロストだけで、あんなに弱ってしまったのだ。亡くしたら、もっと酷いことになるのは確実だ。だから、生き残る前提で戦う。
「ニール、ブドウ食べたい。」
「それは、風呂上りにしようぜ、ティエリア。ほら、ハイネが上がってきたからさ。・・・・三蔵さん、先に入りますか? 」
「いや、おまえが先だ。そして、湯上りに、冷たいのを用意しとけ。」
「麦ですか? それとも米? 」
「麦でいい。」
「わかりました。悟空、レイ、ごめん、先に入らせてくれ。」
「オッケー、俺は、ひやっこい桃シャーベット。レイは? 」
「みかんシャーベット。」
「はいよ。ティエリア、じゃあ入ろう。」
お茶漬けの碗だけは下げて、親猫と紫子猫は風呂に向う。明日で、休暇も終わりなんだなあーと、悟空とレイは、その後姿を見送った。
日曜日の朝に、どかんと宅配便が届いた。ダンボールが四個。六個送ったが、食料と飲料がなくなった分は減っている。
「ふほーーーっっ、やっぱひでぇーよ。」
とりあえず、ダンボールを開けた悟空が、鼻を摘む。適度に熟成されちゃってて、すごい匂いになっている。
「三蔵さん、礼装まで、丸めて・・・畳めばいいのに。」
しっちゃかめっちゃかに投げ込まれているので、坊主の白の袈裟も丸めて突っ込まれている。
「うぜぇーさっさと、クリーニングに出せ。」
掘り掘りと、悟空は、そんな中から、八戒の土産を発掘する。捲簾から言付かったが、珍しいこともあるもんだなーとは思っている。いつも、土産なんて用意しないからだ。
「とりあえず、浸けるか。」
洗濯物だけになったダンボールを、寺の女房が持ち上げる。残りの三個は、レイ、ティエリア、悟空が担当だ。とりあえず、タライに水を張って浸けておいて、順番に洗うことにした。
「クリーニングは俺が行ってくる。」
「クーポン券持ってけよ、悟空。それ、二割引になる。」
「オッケー。ああ、あと、八戒に連絡しとかないと。」
寺に放置しておくと、坊主が勝手に飲むので、連絡してくださいと頼まれている。時間がまだ早いから、メールだけしておくことにした。
「レイ、洗濯紐を、あそこからあそこへ貼ってくれ。ティエリア、これ、第一陣で洗濯機に突っ込め。」
わらわらと、全員で動き出す。袈裟だけは、寺の女房にも洗濯のしようがないから、クリーニング屋に任せている。とりあえず、運んでおくか、と、悟空が、紙袋に、それらを積めて山門から走り出した。天気は上々だから、夕方には乾くだろう。
昨日のプールの水着やら、日常の着替えもあるから、洗濯機はフル活動している。ニールには、あまり、外へ出ていてもらっては困るので、レイとティエリアが干すほうは担当した。色物や染み抜きなんかもあるから、ニールのほうが、そちらを担当している。合間に、一息入れようと、お茶を飲む。
「メシは? 」
「ごはんはあるから、適当でいいですか? 」
すでに、昼前だ。だが、まだ、洗濯機は稼動しているし、洗濯待ちの衣類は残っている。
「味噌汁と漬物。」
「はいはい。・・・ああ、そうか。お味噌汁飲んでませんもんね。」
あちらには、味噌汁というものはない。と、寺の女房も聞いていた。毎日のように飲んでいるのだから、そりゃ飲みたくもなるだろう。今朝は、市販のワカメスープにしてしまった。というか、坊主がいなかったので、ここんところの寺の朝食はパン食になっていたからだ。
「二週間で亭主の定番を忘れるな。」
「すいません。今朝は、レイがしてくれたんです。」
「明日から、通常営業に戻れ。」
「はい。」
それじゃあ、昼は三蔵さんの好物にしましよう、と、用意しているのが、マヨネーズってあたりが、寺の女房も慣れてきたといえるかもしれない。
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キラから指示されてティエリアのエアチケットを手配したアスランは、ちょっと首を傾げた。だいたい、いつもは、朝か昼の便を用意するのに、今回に限っては深夜便だったからだ。
「これ、何か意図があるのか? キラ。」
手配が終わって、アスランが、そう尋ねると、「拉致りやすいから。」 との返事だ。天然電波の言葉の意味がわからないのは、アスランも同じだ。
「誰が誰を? 」
「ラクスがママを。ちょうど、その日の、その時刻あたりに帰ってくるんだ。それで、そのまま、ラクスがママを拉致したいって言ったから。」
作品名:こらぼでほすと 休暇5 作家名:篠義