こらぼでほすと 休暇5
子猫たちが帰ると誰かが横にいないと寝られない親猫は、紫子猫が帰ると、誰かと布団を並べる。で、まあ、歌姫様の言い分としては、こういう場合は、年少組の男ではなく、娘の私が最適だろう、ということらしい。ラクスも忙しく、世界を飛び回っていたので、親猫に愚痴でも吐いて休みたいということでもあった。
「そういうことか。それなら、三蔵さんと悟空には話しておかないと。」
「そうだよね。夕方に行って、晩御飯も食べさせてもらおうよ。」
てなわけで、キラたちは、おやつ時間に寺へ顔を出した。居間には、ものすごい洗濯物が積まれていたので驚いた。
「何事? ママ。」
「三蔵さんたちの出張の洗濯物だ。おやつなら、冷凍庫にシャーベットがあるぞ。」
ティエリアにバスタオルの畳み方を教えつつ、ニールは、そう叫ぶ。まだ、外には洗濯物がはためいていて、悟空とレイが取り込んでいる最中だ。
「手伝いましょうか? ニール。」
「いや、こっちはいいよ。おまえさん、キラのおやつ出してやってくれ。それから、悪いけど、レイたちのも用意してくれないか? 」
「わかりました。三蔵さんは? 」
「パチンコ。」
「あははは・・・相変わらず、フリーダムだなあ。」
すでに、三蔵は、いつものように日常を満喫しているらしい。まあ、それでこそ、三蔵なので、アスランも台所へ赴く。勝手知ったるなんとやらで、適当に冷凍庫や冷蔵庫から入用のものを物色して準備する。
「ママ、今夜、晩御飯食べていい? 」
「いいけど、重い、キラ。」
寺の女房の背中から、がばちょっと張り付いた大明神様はおねだりする。体重をかけられて、背中が丸くなっていく寺の女房の姿に、紫子猫が立ち上がって、大明神様をひっぺがす。
「やめろ、キラ。」
「忘れてた。はい、ティエリア。これ、データチップのセット。説明は、緑のヤツね。」
自分のカバンから、データチップの束と、別に説明用のデータが入ったものを取り出して、紫子猫に渡すと、また、がばちょっと親猫に張り付く。
「やめろって言ってるだろ、キラ。重いんだぞ? おまえさん。」
「刹那がやっても怒らないじゃない? 差別はんたーいっっ。」
「そりゃ、刹那は滅多にそういうことしないからだ。・・・・ティエリア、それ、明日の荷物のところに入れて来い。」
渡されたのは、重要なものだから、まず納めろ、と、紫子猫に注意する。もちろん、紫子猫も。それはそうだ、と、脇部屋に走った。これを破壊してしまったら一からやり直しになる。それを見送って、こそっとキラは、ママの耳元に囁く。
「ねーママ、明日ね、ラクスが拉致するんだって。」
「え? 誰を? 」
「ママ。添い寝してもらってねー。たぶん、僕も行くけどね。」
「あいつ、まだ仕事だろ? 」
「明日ね、特区に帰ってくるんだ。しばらくは、特区に滞在。」
「・・・・・あいつもお節介だな? おまえさんと寝りゃいいだろうに。」
もちろん、この「寝る」は、本当に枕に頭を並べて寝るという意味の「寝る」 で、それ以外の意味はない。ニールと歌姫様も同じことなので、誰も関係を怪しむことはない。
「だって、ママ、寂しいでしょ? 僕とラクスなら、子猫一匹ぐらいにはなるし? 」
どうも眠れない、というのは毎度のことだ。今回は、レイに頼もうと思っていたのだが、歌姫様が名乗りを上げてきた。
「俺は誰だって一緒だぞ? 」
「いいじゃない、たまには、ラクスにも付き合ってあげてよ。」
「おまえさんのほうが、ラクスにはいいんじゃないのか? 初日は、おまえさんが相手をしてやれ。」
「うーんとね、これ、ラクスからのオーダーなので、僕のほうが余計なんだよね。でも、僕も、たまにはママのお役に立ちたいので立候補してるんだ。」
「そういうことなら、よろしく頼む。」
「くふふっ、任されるよーん。」
それだけ話すと、キラも背中から剥がれた。ティエリアには聞かせたくなかったのだろう。自分が帰った後で、そういうことがあるとわかれば、心配するからだ。ててててっと、廊下を走ってティエリアが戻って来た。
「ニール、無事ですか? 」
「ああ、もう剥がれたよ。」
「じゃあ、続きを。」
「とりあえず、タオル関係は、おまえさんに任せるから畳んでくれ。」
タオルなら簡単なので、それを洗濯物の山から取り出して畳ませることにした。組織でなら、畳むところまで、ほぼ全自動だから、こういうことは、あまりしない。生真面目な紫子猫は、少しの歪みも許せないから、きちきちと畳んでいるので、非常に遅いが、綺麗な畳み方はしている。
「こんで最後なー。よおう、アスラン。」
悟空とレイが、最後の干しあがりを運んできた。また、洗濯物の山は一回り大きくなった。
「悟空、おやつにしないか? 」
「するする。ママ、ちょっと休憩しようぜ。朝から動きすぎだからさ。」
「昼寝してませんよ? ママ。」
さすがに、大量の洗い物を捌いて干していたら、昼寝どころではなかった。そろそろ、一休みしないと、と、レイが注意する。
「じゃあ、お茶にしよう。お疲れさん、みんな。後は畳むだけだからな。」
「ティエリア、そんなに丁寧にしなくてもいいぜ? 」
「ダメだ。こういうのは、きちんとしておくほうが気持ちがいい。」
「うん、まあ、おまえがいいんなら、俺はいいけどさ。」
どうせ、それは、今晩の風呂で使うのだから、すぐに洗濯物と化すのだが、紫子猫がせっせとやっているので、悟空も、そこまで言うのはやめた。何かしら親猫の役に立っているというのが、紫子猫には楽しいのだろう。
「これ、すっごくフルーティー。」
勝手にシャーベットを食べて、ご満悦のキラに、レイが微笑む。凍らせていた果物を、ミキサーで全部粉砕したものだ。元々が凍らせた果物だから、フルーティーには違いない。
「果物を凍らせてんだよ。キラ、ひとりで食わないで、ちょっと待て。」
「待てないね、ごくー。すぐに融けちゃうから。」
「ほら、ママもティエリアも融けるから、先に食おうぜ。」
悟空が、ニールとティエリアの腕を引っ張って、卓袱台の前に連行する。そこには、アスランが用意したシャーベットが並んでいる。
「うおーっ、キーンってくるっっ。」
「急いで食うからだ、悟空。」
わしゃわしゃと、かき氷のように盛られたガラスの器をかき込んで、悟空は、こめかみを押さえる。
「ティエリア、食べないのか? 他のがよかったら・・・」
食べないで、ぼんやりと、それを眺めている紫子猫に親猫が声をかける。ここんところ、おやつは、こればかりだったから飽きたのかと思ったのだ。
「いや、違うんだ。」
これ、もう食べられないんだな、と、思っただけだが、口にしなかった。今度、降りてくるのは冬の季節だ。来年は、とても降りてこられない。こうやって、もう一度、食べることが出来るのは、再始動が終わってからだ。そう思うと、紫子猫は少し残念な気分になったのだ。
作品名:こらぼでほすと 休暇5 作家名:篠義