東方無風伝 その5
「そこで、だ。風間殿」
「ぬ?」
「風間殿の力になりたいと思っているのだが、どうだろうか?」
「どういう意味で?」
「そのままの意味だ。私が、風間殿が力について理解出来るように協力する。それだけのことだ」
「……」
「いやそう怪しまないでくれ。純粋に、手助けしたいだけだ」
……藍の言葉にはきっと嘘はない。お人好しな性格をしている妖狐。
だが、九尾の狐と言う妖孤を見ると、大昔のことを思い出す。詳しくは覚えてなんかない。一体何百年何千年と前だったか、外の世界の……確か中国だったか? その辺りに位置していた一つの帝国。それが、滅ぼされたことを。いや、もっと別の国だったか? いやそもそも妖孤だったか?
「……」
そもそもが、藍は間違っている。
俺はまだ未覚醒者だが、藍は覚醒していると決め付けている。出せるはずもない力を、そうほいほい出せるものか。
「いや、悪いが藍。これは俺自身の問題だからな。他人の力を借りるわけにはいかんよ」
「だが、力が使えないというのは、この先幻想郷で生きるには厳しいと思うのだが」
「大丈夫さ。だからこそ、こうして剣術の修業をしているのだ」
「まぁ、風間殿がそこまで言うのなら、無理にとは言わないが。だけど、私は何時でも力になるからな。困ったことが有ったら、頼ってくれ」
「その言葉、忘れないでくれよ。何時かそんな時が来たら、甘えさせてもらうからな」
「忘れないさ」
本当に、お人好しな妖怪だな。妖怪は誰しも身勝手に生きるモノだと思っていたが、そんなことは無いみたいだな。それとも、何か企んでいるのか……。だとしたら、俺に力を与えようとする利点が解らんな。ただ単に恩を売ろうと言うのか、親切なのか、情報を得ようとしているのか。
藍は、八雲紫の式神と言うのを忘れてはならない。八雲紫は執拗に俺の正体を知りたがった。藍を通じて、俺の正体を暴こうとでもしているのやもしれない。
藍は無自覚のままで。
とは言っても、あくまでも可能性の一つ。
今は、藍を信用して、ただの親切として受け取ろうじゃないか。親切を疑うなんて、人として信用を失うものだしな。



