東方無風伝 その5
「おや?」
ふと、桜を掃く手の動きを止めて空を見上げる。
「どうかしましたか?」
そんな俺の様子を不思議に思ったのか、妖夢が呼び掛けてくる。俺が空を見上げているのに気付き、釣られて空を見る。
「曇っていますね。このまま雨が降らないといいのですが」
空は曇りきっているが、その雲は少し薄いようで、雨が降らせそうな雲ではない。
「妖夢」
「はい」
「ちゃっちゃと終らせよう。これから冷えるぞ」
そう言って、少しばかり慌てるように、少しばかり乱暴に箒を掃いた。
「えっと……どうしてですか?」
妖夢の疑問は、何故冷え込みそうだと俺が思ったのか、と言うことだろう。
そんなもの、空を見れば解る。
「直に雪が降ってくる。そうなれば、当然冷え込む。そうなる前に終らせよう」
「雪ですか? ……私には降らないように思えますが」
「いや、降る。妖夢、年長者の言葉は信用してみると面白いぞ」
そう言えば、妖夢はむっとした表情になる。
「どうした?」
「私だって、これでも見た目以上の歳なんですよ。多分、風間さん以上」
「おやおや、そいつは本当かい」
「これでも、半分幽霊ですから、半分寿命がないんです。人間よりも長寿なんですよ」
「ほう、そうだったのか」
などと言われても、それでも俺から見ればまだまだ子供だ。
馬鹿みたいに長過ぎる年月を生きると、たかだか数十歳数百歳、いや数千歳だろうと子供にしか見えん。尤も、そこまで長く生きるようなやつなぞ、数少ない存在だがな。
そんなことを言ったら、俺から見れば生物全てが子供のままだ。
「さぁ、ちゃっちゃとやってしまおうか」
「あ、はい」
妖夢を促し、再度庭掃除を始める。
白玉楼を見上げるように空を見れば、相も変わらずの曇り空。
この空を見ると、この寒さ以外で漸く白玉楼に冬が訪れたのだと実感する。きっと冷たい雪が降れば、その感慨もより深いものになることだろう。
目線を空から落としていけば、縁側に座る霊夢達の様子が見える。
西行寺が空を見上げた。
きっと向こうも、雪が降る事に気付いただろう。



