東方無風伝 その5
ざっざと、黙々と箒を動かしてれば、箒を握る手がひやりと濡れた。
とうとう雪が降り始めてしまったようで、顔を上げれば、空から雪が舞い降りてきていた。
「妖夢、雪が降ってきた。そろそろ戻ろうか」
そう声を掛ければ、妖夢は空を見上げた。本当に雪が降ってきた事に少しばかり驚いているようだ。
それから、そうですねと俺の呼び掛けに同意して、箒を手に歩き出す。
「本当に降るとは……」
「言っただろう。年長者の言うことは信じてみることだと」
「……それでも、幽々子様や紫様の言う事は信用に欠けるものがありますけどね」
「あっはっは、全くだ」
確かに、何を考えているんだか解らないあの二人の言う事なんざ、とても信用出来るものじゃない。年長者だから、と言う考えは改めた方が良さそうだな。
西行寺達が居座る縁側へと向かってみれば、あの式神コンビがいなくなっていた。
「藍と橙は?」
「帰ったわよ。猫は水が苦手だから」
「そうかい」
雪と言えども、結局は水と変わりなく、更に言えば雨と変わらない。水が苦手な猫、それに加えて式神。相乗効果で橙は水がかなり苦手なのだろう。
「三姉妹は?」
そう言えば、朝っぱらに眠っていたのを見て以来、あの三人は見ていない。
「帰ったわよ。貴方達が稽古をしているくらいの時に」
そいつはまた結構前なことで。結局、あの楽団の演奏を聞くことは出来なかったか。少しばかり残念。
「降ってきたわね」
「本当ね。まさか本当に降るとは思わなかったわ」
「だぜ。空の雲はあんなに薄いのに、不思議なもんだぜ」
やっぱり西行寺が予測していたようで、雪が降り始めたことがどうにも疑問なような霊夢と魔理沙。妖夢と同じことを言っている事が微笑ましかった。
「何笑ってんのよ、気味悪いわね」
「何を!?」
気味が悪いと言われると、やっぱりショックを受けるもので。
「お、私は見てなかったぜ。と言う訳で風間、もう一回」
「するか!」
俺の顔は玩具じゃない。
……そんなに俺の笑顔って気持ち悪いのだろうか。いや、霊夢は悪ふざけで言ったと信じる。うん、そうしよう。
「綺麗ですね」
妖夢の呟きに釣られ、再び空を見る。
雪がひらひらと舞い落ちる光景は、まるで桜が散る光景を思い出させた。
「冬の桜ってわけか」
ひらひらと舞い落ちる白い桜。桜はまだ死んでいなかったのだ。



