東方無風伝 その5
俺が白玉楼に来て早一カ月。になるだろうか。白玉楼に冬が来たのが一、二週間前。そして俺が白玉楼を訪れてから宴会までが大体二週間程だろうから、恐らくそのくらいだろう。
毎日が安定した日常だと、一日一日の感覚が麻痺して、もうどのくらいの月日が経ったかなどよく解らない。
妖夢の竹刀を避けて考える。
屈んで避ければ、次は身体を半身にして避ける。迫る竹刀を受け止めれば、まるで予測していたかのように次の一手が襲い掛かる。それを弾き返し、攻撃に出ようとするが妖夢はそれを見透かすように距離を取ってそれを許さない。
妖夢と俺は、修業と言う事で毎日のように稽古を行ってきたが、最近では相手の癖を身体が理解してきたのか、何となくだが相手の次の行動が解るようになってきた。それは妖夢も同じことだろう。
一瞬で距離を詰め、竹刀を振れば、妖夢は屈んで避ける。その低姿勢から足払いを掛けようとしてくるが、一歩後ろに下がり避ける。そのまま妖夢の顔目掛けて砂を蹴りあげる。
低姿勢だったのだが災いした。妖夢の顔に砂は命中。反射で下がり、顔を拭おうとするところに竹刀を振う。
「みょっ……!」
眼に入らなかったのが幸いだったようで、妖夢は危ないところで避けることに成功した。
次の瞬間、流れるように、妖夢が動いた。
その波の動きに身体が追い付かずに、反応が一瞬遅れた。
それは直感にしか過ぎなかった。竹刀で受け止める体勢を取れば、偶々妖夢が其処を目掛けて振ったかのようだった。
「眼潰しは、少し痛かったですよ」
「眼には入らなかっただろう」
元々、砂による眼潰しは大した効果などない。
だが、妖夢を本気にさせるには十分だったようで。明らかに妖夢の動きが変わった。空気の流れと同化したような、滑るような動き方。
これほどまでに読み辛い動きがあるだろうかと思わせる。右に動いたかと思うと、次の瞬間には左に。それは眼では追えない死角を突く動き。
だけどもそれは、既存の技術。
俺のすぐ傍まで接近していた妖夢が振った竹刀は、放物線を描きながら落ちた。
「……え?」
「はい、俺の勝ちー」
驚き呆ける妖夢の首に、竹刀を当てて言う。
先は突然のことで遅れたが、眼で追えなくとも、メジャーなその動きを長年生きてきた俺は理解していた。だから、妖夢がその動き方をした時点で、妖夢の負けは決まっていたのだ。



