東方無風伝 その5
「霊夢が以前言っていたな、そんなこと。俺は幻想郷なぞ、こちらに来て初めて知ったよ」
今の状態は、と心の中で付けたす。
こうして八雲紫を見ていると思い出す。あの時、幻想郷が創られる様を。
元より幻想郷とは、ただの山の中の人里のことを現していた。山奥故に、外とは孤立した地上の孤島。其処ならば、世界から消えても問題ないと、妖怪達は判断し、あの大結界を張り巡らせ隔離した。そうして幻想郷は創られた。
それが今や、こんなにも広く栄えた世界になるとは。それもそうだろう。あれからどのくらいの時間が経ったことか。
八雲紫と眼が合う。その眼が細められる。
観察されているな。俺の正体を見極めようとしているのだ。無駄なのに。
「貴方は一体何者かしら?」
「人間と答えた筈だが」
「人間なら、解るの」
気配察知。生きているモノの気配を肌で感じ取る技術。これに長けたモノは、その気配だけで森の中に蟲が何匹いるか把握することが出来たり、また気配を掴めば相手がどんな人間か、何を考えているか解る。
八雲紫は長く生き、様々なモノと接触した。故に気配だけで人間か妖怪か感じ取れるのだ。
だが、八雲紫は、気配では俺の正体が解らないと言っているのだ。
「肉体は人間の筈。でも、魂が異なっている。バランスが整っていないのよ」
流石八雲紫。其処まで解ってしまうのか。
人間と言う小さな器に、俺の魂は大き過ぎる存在なのだ。そんなことくらいは自覚しているさ。それでも、この器に大きな魂を入れる事は可能なのだ。現に、それが成功しているから俺は此処にいる。
「貴方は本来存在しない筈」
魂と肉体のバランスが釣り合わないのなら、どちらかが滅びるのだ。肉体が大きければ、魂を潰し、魂が大きければ、肉体は割れる。
俺の場合は、後者が起きるのが自然なのだ。だから、俺は今もまだ存在していることが八雲紫にとって不思議なのだ。
「簡単なことだ」
「……」
「魂が大きいのなら、魂を削ればいい。肉体が大きいのなら、器を小さいものに変えればいい」
「貴方は、人間の身体に乗り移った魂だけの存在? いえ、それでも死んでおかしくない」
「六十点。もう二押しくらいだな」
六十点は言い過ぎたかな。実際のところは八十点と言う点数でもいいくらいだろう。



