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春の目覚め・3

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 バイエルンの呟きにプロイセンは柄の悪い返答を返す。が、やはり、バイエルンはプロイセンの態度に文句を付けては来なかった。ただ、言葉 を続けた。
「今はまだ、消えてやるなよ」
「はあ? なんでお前からそんな心配されな――、」
「お前が消えて、これが正常な状態を保てるとは到底思えん」
 バイエルンの言う「これ」とはドイツを指しているのか。
「なんだそれ…」
「この戦いで、ドイツ軍として何をしてきたかお前も把握してるだろう。間もなく、連合側の手に寄ってゲットーの存在も世に暴かれる…」
「…だろうな」
「この狂気は、ドイツの抱える狂気だと思うか?」
「この可愛い弟がこんな胸くそ悪い計画立てるかよ」
「すべては愚かな人間どもの愚行だと言い切れるか? 国の化身として俺たちが存在しているのに?」
「てめぇは、ヴェストが狂ってるとでも言いてぇのかよ!?」
「ユダヤの民を排除する口実にするつもりだったのだろうが、純粋なゲルマン民族、アーリア人のみをドイツ国民にしようなどという不可能な考えがどこから出てくる」
「俺様も案外ユダヤ嫌いで――、」
「固定の民族を持たずに来た貴様のどこから民族の保存などというお題目が出てくるというんだ」
「固定の民族を持てなかった俺様だからこそ、そういう極論に出ちまったかもしれねぇぜ?」
「呆れる程の寛大な移民政策で国を保ってきた、今では見事なまでに保守派に成り下がった貴様から出てくるとは思えんがな」
「…ガチガチの保守派のてめぇに言われる筋合いは無ぇよ」
 なんでこんな会話をこいつとしないといけないんだとプロイセンは顔を顰める。
「慌ただしく、無理矢理に国を纏めた歪みが、ドイツに闇を落としてると、そんなことを考えたことはないか…?」
「……だったら、すべてはこの俺様の、」
「ドイツ帝国としてではなく、プロイセン王国復興を最後まで模索していたお前から出てくるとは思えんな」
「全部、俺様の持つ狂気だよ。侵略、虐殺から始まる歴史を持つこの俺様の」
「………可愛い弟か」
「当たり前だろうが」

 原因など、考えたくもなかった。

 アメリカが無関心を装った風体でじっと聞き入ってるようだった。

「てめぇは、何が何でもドイツを狂気の固まりにしたいらしいな」
 苛立ちが言葉として澪れ落ちていく。
「また、独立騒動でも起こす気かよ」
「この状況下で独立などしたところで袋叩きに合うだけだ。安心しろ、今しばらくはドイツの元に収まっておいてやるよ」
 腹立たしいことにバイエルンがドイツの元を離れる気が無いと分かって安堵する自分がいた。そんな自分にプロイセンは小さく舌打ちしたくなった。
 バイエルンの財力と権力が残れば、ドイツの復興も早いはずだ。腹立たしいが、それが今現在の余力の差だった。
「だいたい、てめぇがバイエルン王室復興を目論でクーデターを起こしてなけりゃ、あの男が政治家として台頭させるきっかけも作れなかったかも しれねぇのに」
「あれは、今思い出しても腹が立つな。俺の王室復興は掻き消えたのに、あの男だけが成功してくれやがった」
 忌々しいという表情でバイエルンが吐き捨てる。本気で恨んでいたようだ。
「本当、あの男は政治家としては有能だったよ。何が不利益で何が有益かよく見極めてたしな」
「世界恐慌を乗り切ったことでも内政方面は優れていたのは確かなんだが…」
「外交が致命的にダメだったな」
「本気で世界征服できると思ってたのかね…」
「ヴァイマル期に首相まで上り詰めた手腕は評価してやるが、俺様の、プロイセン王室復活、ドイツ皇帝復活を邪魔したのだけは許せねぇよな。 上司のやつに遺言で言わせたはずなのに、あの野郎、プロイセン王室復活のとこだけ握り潰しやがって」
「独裁主義を狙ってる奴が皇帝の存在なんざ認める訳がないだろう」
 言いながら虚しくなってきたのか、バイエルンも溜め息を吐く。
「あー、ちきしょう。あの遺言さえ世に出せていたら…!」
「せめて、バイエルン王室を復活させることが出来ていたらな…」
 今度は二人揃って虚しい溜め息が出た。
 本当に悪運ばかりが強い上司だったよと、プロイセンは今更のようにぼやくしかない。
 黙って二人の奇妙な会話に耳を傾けていたらしいアメリカが、不意に愉快そうに口笛を吹いた。ドイツ革命によって王国が滅亡した後も、プロイ セン、バイエルン共に王室復活を虎視眈々と狙っていた事実に驚いたのと呆れたのと半々という気分だろうか。
「本当に、見事なまでに内部がバラバラだね。そんなだから負けるに決まってるよ、君たち」
 似たようなことをドイツ統一の時にフランスのやつに言われたな、とプロイセンは思い返し、苦虫を潰したような顔をした。
 バイエルンは「ガキが黙ってろ」と小さく呟くに留めていた。

 それから数分の後、イギリスが丁寧に高級そうなティーカップのセットとスコーンを持って戻ってきた。
 優しい香りが幾分か気分を落ち着かせてくれる。
「お茶と茶菓子だけは美味いのにな。他がまともに食えねぇってのは全く謎だぜ」
 遠慮無くまったりとお茶を味わうプロイセンの言葉に、イギリスが無言の睨みを向けてきたが、それ以上は何も言わなかった。
 自分から飯が不味いという話題にはいかないようにイギリスは咳払いをして話を変える。
「ところで、例のあの爆撃王だが、あれはいったい何なんだ!? 話を聞かせろ、戦闘機見せろと言っても、偉そうな態度で風呂に入らせろ、飯 を食わせろの一点張りだったぞ。捕虜の自覚あるのかよ…?」
「ああいう性格のただの急降下マニア。面白い奴だろ?」
「……」
 一言で終わらせてくれたプロイセンにイギリスは疲れたように溜め息を吐いた。
 こいつの国の人間だけあって、常識とか礼儀とかが無くても当たり前かもしれない、と思うことにしたらしい。
「あ、そうだ」
 イギリスの苛立ちなど素知らぬ顔でプロイセンは尚も話し掛けてくる。
「おい、イギリス。人探し頼まれてくんね?」
「あ?」
「こいつの身内が生き残ってないか調べておいて欲しいんだが。で、もし見つかったら、ヴェストに知らせてやってくれ」
 そう言い、小さなメモ紙をイギリスに差し出してくる。
「何でてめぇの…、」
「気が向いたらで良いからよ」
 プロイセンの静かなトーンに何となく断り損ねたイギリスは「気が向いたらな」と小さく返し、メモ紙を受け取ってしまった。
 そんなイギリスをアメリカが呆れたように眺めていた。




 戦後処理についてどうするか、アメリカ相手に話している最中だった。アメリカはロシアの動きが怪しいのが気に食わないと呟いていた。
 まだ、日本は降伏をせずに戦っていると情報を耳にしたプロイセンは、何とか日本と連絡が付かないものか思考を巡らせていた。
 そんな時だった。イタリアが必死の形相で駆け込んで来たのは。
「プロイセン! どうしよう! 日本が、日本が…!」
「イタリアちゃん!? どうしたよそんなに慌て―――、」
「アメリカ! お前、何を考えてるだんよ!? 今の日本は降伏するのも時間の問題だって分かりきってるじゃないか!」
「アメリカ、てめぇ! 自分が何をやったのか分かってるのか!」
作品名:春の目覚め・3 作家名:氷崎冬花