猫日和
「暫くぼーつとしてたじゃないか」
「じっと見てると雪が昇って見えるから…」
「ばかかお前は。それでこんなに雪まみれになって風邪引くだろ」確かに肩や頭に雪が積もっている。
払い落としながら
「何時から見ていたんだよ」
「転んだ所ぐらいかな」
「雪の中帰ってこない先生が悪いんだぞ。塔子さんが心配するから捜しに来たのに」
「呼んでいるのが聞こえたから出てきてやっただろ。」
「飛んできたのは何故なんだよ」
「気にするな」
「気になるよ」
「ぼーつとしていたから気合いいれてやろうとしただけじゃないか」
「その体重で来られたら危ないだろ」
「当たらなかったんだから良いだろう」
「そう言う問題じゃない」
「あーうるさいな。夏目。こんな所で言い合っていると雪だるまになるぞ」確かに。
ニャンコ先生を抱き上げて
「早く帰っておやつを食べよう」
「なに。おやつ」
あって言う間に大きくなってマフラーを銜えて背中に放り上げられる。
「掴まっていろ」雪の中飛ぶ気か。
「やめろー」と言う悲鳴も雪に飲み込まれる。
ぐんと高く上がってから落ちていく感じ。雪が痛くて目も開けられない。
動きが止まったと思ったら「着いたぞ」と言われるが手が強張って体が動かない。
背中をずらして下ろしてくれる。尻尾で体の雪を払ってもらって暫くその体に寄りかかって体を温める。
「寒かった…」
「軟弱者め」
「毛がふさふさの白まんまるに言われたく無い…」
雪の中で白い毛。見分けがつかないな。
「どうした?」
「見分けつかないなと思って」
世界が真っ白。どんどん白くなっていく。見ているとボーつとするな…。
顔で頭を突いて
「ほら。早く帰るんだろ」
「うん」
「お腹すいたぞ。残り抱いてけ」と猫に戻る。
三毛の方が目立つな。抱き上げて家に戻る。
玄関から入った途端
「まぁ。貴志くん。頭びしょぬれ。早くお風呂にはいりなさい」と追いやられる。
お風呂から出てきたら夕食。部屋に戻ってからおやつ食べそびれたと文句を言われる。
雪の中出歩いていたのが悪いんじゃないか。
玄鳥至
妖怪がらみで怪我をして塔子さんにばれないように手当てをするのは日常茶飯事。部屋に救急箱をこっそり隠している高校生ってどうなんだろう…。
今回は毒にあたってずきずき痛む上に熱が出た。鎮痛剤を飲んで寝てるといつの間にかニャンコ先生がいない。また飲みに行ったんだろうか。言うこと聞かないで怪我ばかりすると怒ってたから暫く帰ってこないかな…。
がたがた風が窓を揺らす音を聞きながら布団を頭からかぶって丸くなる。傷口がじくじく傷む。痛みと共に子供の頃の記憶がよみがえる。石をぶつけられたり水をかけられたり…。あの頃の痛みと今の痛みとどっちがましだろう。どちらも疼くような痛みだ。
泣きそうになるのを堪えながら少しでも痛くないように向きを変えると窓を叩く小さな音が聞こえる。帰ってきたのかと起きると窓の外にいたのはヒノエだった。
「夏目。開けとくれ」
あわてて窓を開ける。
「お邪魔するよ」
入るなり顔をおさえて
「駄目じゃないかレイコ譲りの顔に傷つけちゃ」
「いたっ…」
「薬を持っきたから動きなさんな」
「薬?」
「斑に聞いたのさ。今頃痛くて泣いているだろうから笑いに行ってやれって」
「やっぱ怒っているんだ」
「くだ巻いていたねぇ」素直に見てやってくれと言えば可愛いものを。
ボソッと言われて聞き返すと
「なんでもないよ。ほら手をお出し」
手の包帯を解いて塗ってくれようとする。
「自分で」
「じゃあとで包帯縛ってやるよ」と薬をくれた。
キセルを出して一服しだす。傷口に塗ると疼くような痛みが引いていく。眠れそうでほっとする。どれと包帯を留めてくれる。
「朝までに熱も引くよ」
「あの。ありがとう。わざわざ」
「気にしなさんな。まとめて返してもらうから。何にしようかね〜」
「お手柔らかに頼みます…」
「それより夏目。あまり血を流すんじゃないよ」
「え?」
「美味しそうな匂いであやかしが余計集まる」
美味しそう…。
「斑でさえ酔いそうだと言っている。気をお付け。頭から食われるよ」ニヤニヤ言われる。
それならすでに何度も寝ぼけて食われそうになったとは言えない。
「それより妖怪はアル中にならないんですか?」
「ならないね」
「そうですか」
「なんだい。ぶさ猫の心配かい?」
「最近よく飲んで帰ってくるので」
「あーあれは違うものに酔っているからねー気晴らしに飲んでいるんだよ」
「違うもの?」
「それより寝な。明日顔色悪いと心配されるんだろ?」
「ああ・はい」
お礼が楽しみだねぇと帰って行った。
布団にもぐりこみながら何に酔っているんだろう?
するめかな?やっぱり猫にするめは良くないんだろうかでも妖怪だしと眠りについた。
お礼は何にしたらいいんだろう…。
どどどっと言う音が近づいてきてバンという音がして布団が重くなった…何事?
布団から顔を出すとニャンコ先生のドアップ。
「うわっ」
「なんだ。生きておったか…」
「朝からなんて挨拶だよ」
「ヒノエに薬が効かなくて熱が上がったと聞いて生きてるうちに友人帳を確保しようと走ってきたのに…」
今頃息があがっている…。
「からかわれたんだろ。熱はすっかり下がったよ。痛みも引いた」
「そのようだな」気のせいかほっとしたように見える。
「つまらん。もーちょっとで友人帳が私のものになったのに」
「長生きしているんだからもう少し待てれるんじゃ無かったのか?」
「だんだん薄くなってくじゃないか」
「もともと途中で命を落としたら譲るって約束だろ」
生きているうちに終るかな。名を返すたびに消耗するのでどんどん来られても困るけど出来るだけ返したい。一編に来られたら死ぬかも…
レイコさんは何処であんなに集めたんだろう。
「どうして皆失敗するんだ。こんなもやしなのにー」
ばこん。一発拳骨。
まったく朝から縁起でもない。頭抱えているニャンコ先生をおいて学校に行った。
どうせなら人を頼らず自分でしろ。
朝から多軌に合って
「おはよう夏目くん。猫さん元気?今日は学校に来ないの?」と聞かれる。
「おはよう。別に連れて来ているわけじゃなく勝手に来ているので…。今日はたぶん来ないよ」
「何?喧嘩?」
「昨日の夜からちょっと…」じつと手を見て
「夏目くんその怪我あっちがらみなのね」
「いや。あの…」眉を顰めてちょっと黙ってから
「夏目くん皆でどこか行きましょう」
「え?」
「普通のこともしなきゃだめよ。私も付き合うから」
田沼君も誘うわ。夕方までに考えるから放課後またね。と走っていった。口を挟む間もない。
ボーつと後姿を見送ってると後ろから
「はよー。なになに。朝から多軌さんとお話して。いーなぁ。彼女」
「いや。ニャンコ先生のことを聞かれただけだよ」
「あー彼女あの猫をかなりお気に入りのようだったな」
「変わった趣味だよなー」
「もっとかわいい猫いるだろうに。なあ夏目」
何も言えない…。
HR終わってすぐ多軌が飛んできた。逃げないか心配だったのか…
「夏目くん。今度の日曜にしましょう。どこか行きたいとこある?」
「いや」思いつかない。
「えーどこか行くの?いいなあ」