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カナリア

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 見下ろした高杉は瞼を閉じていた。ここぞとばかりにじっくり見つめていると驚くほど肌のきめが細かく美しい。目だって三白眼だけど全然睫毛長いし。
 晋助さまかっこいい…。
 両目の晋助さまも見てみたかったけど…でもどんな晋助さまだって晋助様なんだ。
 やっぱり好きだ。好きで好きで、自分が好きでいることが恐れ多いような気さえしてくる。
 さらさらとした高杉の黒髪が剥き出しの肌にあたってくすぐったくも心地よい。
 髪とか撫でてもいいッスかね。駄目か、やっぱり。
(あーーーっ、誰かこの現場を写真に撮って!)
 触りたいっ、触りたい触りたい!
「し、晋助さま…?」
 試しに呼んでみたが返答がない。まさか眠ってしまったのかともう一度呼びかけてみる。けれど相変わらず高杉は目を閉じたままで返事もない。
「晋助さま、寝ちゃったんスか」
 ふるふると震える手を持ち上げてそっと額にかかる高杉の長い前髪に触れた。
(さらさら…こんな猫の毛みたいなのに)
 壊れ物に触れるように頬に滑らせる。
(晋助さま…)
 いつも一人ぼっちみたいな顔して…。
 伝わればいいのに。この指先からどれほど貴方が大事で大切で守りたくて愛しいか…。





「三ヶ月も音信不通でどこで何していたかなんてのは訊かねェが…」
「橋田屋にね、用心棒に行っている間に面白い侍と出会ってねェ」
 篭った空気を逃がそうと障子をあけて外の空気を入れ込む。最近めっきりと涼しくなった風が高杉の肺を満たすが身体は落ち着いていた。開け放った向こう、よく手入れをされた中庭を見つめながら高杉は煙管を噴かした。
 ここはどういうわけか鳥がよく来る。今も池の周りに二匹の雀が下りてきてしきりに動き回っていた。
「銀色の髪した天然パーマの木刀持った莫迦強い侍で、負けちまいましたよ」
 見事に。
 くつくつと哂って似蔵は三ヶ月前ここを出る前にみた彼の気配と今の気配が少し変わってしまっていることに気づいた。
「それで?おめおめと逃げて帰り合わせる顔がなかったってわけかぃ?」
 初めは、そんなつもりはなかった。
 だが、悔しさに憤死しそうになりながらあの銀髪の侍のことを調べていくうちに一つの事実に辿り着いた。
「坂田銀時って言うらしいよ」
 彼は元攘夷志士…桂小太郎や…そして目の前にいる似蔵にとっては絶対的な存在である高杉晋助の戦友だと言う。更に似蔵を驚かせたのはその男は攘夷戦争時代、白夜叉と呼ばれ天人だけでなく同じ攘夷志士の間でも恐れられていた強さの持ち主なのだという。
 それでなるほどと似蔵は納得した。
 しかしそれと同時に恐ろしくどろりと禍々しい気持ちが己の中に生まれた。
「昔のあんたを…知っている男さね」
 高杉晋助という男の魂の根源を知る男だと、そう思った途端になぜあの時に刺し違っても殺しておかなかったのかと無力な掌を何度も床に叩きつけた。そして今なお深く…高杉を支配している男だ。万斉に分からずとも、また子に分からずとも、そして高杉自身が気づいていなくとも似蔵には分かっていた。否、似蔵だからこそ感じていた。高杉の魂の悲しい光の向こうにいつもキラキラと光っているものがある。
「そんなもん知ってどうする。俺が今居るのはここだ」
「そうさねぇ」
 でもあんたが今も生きているのは過去だ。
 身体はここにあるかもしれない。だが息をして立っているのは過去の大地だ。
「強くなりたいか、似蔵」
 高杉は恐らくこちらを見ているのだろう。視線を感じる。彼はまたこうして自分を試しているのだ。
「…アア、なりたい。人斬りなんて呼ばれているが俺だって侍の端くれさね。何だい強くしてくれるのかい?」
「紅桜という狂刀を知っているか」
「紅桜…村田何とかっていう刀匠が打ったと言われている曰くつきの…?噂くらいは聞いたことがあるねェ」
「その村田何とかって男に息子がいる」
「息子…?」
 くん、と鼻がひくついた。
 ここに高杉以外の人間の匂いを感じ取ったからだ。部屋からではなく高杉よりも向こう側の中庭から気配を感じる。身構えるように咄嗟に刀に触れたが高杉の落ち着き払っている様子に敵ではないと力を置いた。
「村田鉄也、刀匠だ」
「はじめてお目にかかる」
 頭を綺麗に下げた村田は草履を鳴らしながら座敷にいる似蔵に近づいた。
「村田、これが岡田似蔵だ」
 高杉はすいと横に身を引いて自分で死角になっている似蔵を岡田へと晒した。
「ほォ、噂はかねがね。強い人斬りだと聞き及んでいる」
「どうだ、村田…てめぇの目に適うかィ?」
「似蔵殿なら確かに紅桜を宿すに相応しいが…」
 腕組みしたまま村田はじっと考え込むように高杉を見つめた。
「この目で確かめたいってわけかぃ」
 くつくつと肩を揺らして笑う高杉は素足のまま庭へと下りた。
「似蔵、下りて来い」
「……」
 肩の羽織をするりと落として高杉は刀の柄に手をかける。戸惑っている顔のまま近づいてきた似蔵を一瞥すると目を細めた。
「似蔵、てめーの強さを確かめたいんだと。万斉にでも相手をさせりゃあ面白いモンが見られたかもしれねぇが生憎今はまた子と使いに出てるもんでなァ…武市じゃ荷が重いだろうし。そうなりゃ俺しかいねぇだろう」
 使いに出したのは高杉だ。
 似蔵は恐らく邪魔はされたくないだろうと踏んだからあえて子どものような使いを頼んだのだ。
「死合おうぜ、似蔵」
「おいおい、正気かね」
 じわりと額に汗が滲む。
「残念ながら、いたって正気だ」
「この俺にあんたに刃を向けろと?」
「……」
 眉を寄せている似蔵を無視して、高杉はそっと掌に力を込めて刀を抜いた。抜いた瞬間には間合いを詰めて似蔵の懐に飛び込んでいた。
「…っ」
 ガキンと乾いた空に鋭い刃音が響いた。咄嗟に似蔵は刀を抜いて高杉の刃を受けた。二の腕までびりびりと痺れるような衝撃があり高杉が本気なのだと知れる。けれど彼に刃は向けられない。似蔵にとって高杉は斬るべき対象ではなく護るべき相手なのだ。
「似蔵、ぼさっとしていたら俺ァ、本気でてめェを斬るぜ?」
 身を翻しながら、高杉は白刃を振り下ろす。受け止めて払うと同時に彼の刃は似蔵を薙ぎ払うように切っ先が上向いていた。
「!」
 頬に鋭い痛みが走った。その刹那に血の生暖かさが頬を伝って動きを止めた。高杉もまた詰めたままの間合いで刀を片手に立っている。
「おいおい…てめェはいつから腑抜けになった」
「あんたに刃は向けないよ」
「……」
 頑なに拒否する似蔵にそれでも人斬りかと責めた。
「高杉どの、もう充分だ」
 村田が割って入るように声をかけ突っ立っている似蔵に向かって歩み寄った。
「似蔵殿、貴殿にとって高杉晋助という男は何か」
「…。長いこと盲人をやっていると見えない魂の光がごく稀に見えたりするんだよ。俺にとっちゃあ、この人は全て。世界の理のすべてさね」
 高杉は刀を払うと鞘へと収め背中を向けた。
「紅桜は人体に寄生しその戦闘データを蓄積し学習する。身体にどんな副作用が出るか…まだ未知の部分も多い。だが高杉晋助を護るために似蔵殿、貴殿はそれを受け入れる覚悟があるか」
「俺が刀になるわけかい。あの人を護るための刀に?」
作品名:カナリア 作家名:ひわ子