永遠にうしなわれしもの 第一章
「もう起き上がってもよろしいですか?」
シエルは立ち上がり、背をむけ
「ああ。」と短く答えた。
背中越しに、セバスチャンが執事服をはたいているのが分かる。
「坊ちゃんの服も血で汚れてしまいましたね。
今、着替えをご用意致します。
こちらへどうぞ。」
シエルが通された部屋で待っていると、ドアをノックし、セバスチャンが入ってきた。
「失礼いたします。」
袖口が血で汚れた上着とシャツをさっと脱がせて、新しい黒いシャツを袖から通させ、ボタンを一つ一つはめてゆく。
その首にはまだ、シエルの牙状の歯の跡がくっきり残っていた。
己の愚行を暗に非難されている気がして、苛立ちまじりにシエルが問う。
「それは嫌味か?」
眉を顰めて、まるで何のことだかわからないという顔をするセバスチャン。
「何がでしょう?」
「その程度の傷、すぐにお前なら消せるだろうが?」
「ああ、これですか。
思う様噛んで頂いたので、こう見えても傷は結構深いのです。
もうしばしお待ちいただければ、消えるかと。」
セバスチャンはすらすらそう述べると、
にっこり微笑んで、慇懃に丁重な会釈をする。
「ふん!」
・・それが嫌味だというんだ・・
作品名:永遠にうしなわれしもの 第一章 作家名:くろ