永遠にうしなわれしもの 第一章
「ええ、生きています。」
セバスチャンは認めざるを得ないといった表情で、
答える。
「人間ではなく悪魔として。」
-ああ、坊ちゃん。
貴方はとうとう悪魔に堕ちてしまわれた。
私の坊ちゃんの高貴で高慢な魂は、悪魔 となって、
いよいよその本来の気質を・・-
「いきなりご挨拶だな。悪魔として目覚める前に殺してしまおうと?」
脳裏によみがえる坊ちゃんの声。
-ああ。私は貴方に人間として、
最期のときを迎えて欲しかった。
例えもうそれが間に合わなかったとしても、
それでも私は、試さないわけにはいかなかった。-
「いえ、本当に悪魔としてお目覚めになられたのかと、きちんと確かめて置かねばと思いまして」
記憶の中、どこまでも続く灰色の海とたゆたう濃い霧。
主に手を下した従僕として、
示さなければならない最大限の敬意を払う。
-自分の声さえなんと白々しく、この空間に響いていくことだろう。-
‐もっとも恐れていた結末を前にして、私の心が凍てつく冬の雨よりさらに冷たく、水銀のように重く沈んでいくー
-そう一度失ったものは、二度とは得られない。
失われた日々は二度と、元には戻ることはないのだから。-
作品名:永遠にうしなわれしもの 第一章 作家名:くろ