永遠にうしなわれしもの 第一章
「なるほど、状況の正確な把握か・・・
執事として正しい選択だ」
明らかに鼻で笑うような声音でシエルは、言外に自分の心の中で毒づいた言葉を含めた。
・・悪魔が!見え透いたことを。
だがお前の喰らうべき魂はもうここにはない。
「私は永遠にあなたの魂を食らうことは出来ない。」
悲しそうにも見える面持ちと、深く沈んだ声でセバスチャンは自分自身に言い聞かせるかのように答える。
・・でも僕はもう知っている。
悪魔というものに、悲しみなどという感情が存在しないことを!
ただ目の前から餌を取り上げられた獣のような感情しか存在しないことを・・
--ああ、坊ちゃん。
有限な生き物であった貴方は、悪魔の永遠の倦怠の苦しみなど、まだ想像もできないのでしょう。
人間の抱く悲しみ、苦しみなどとは比較にもならない、この大いなる呪いを --
黒皮の眼帯を取り、シエルが、赤い炎のような怒りと憎しみと誇り高き心の入り混じった悪魔の契約印の入った眼を向ける。
「そう。
そして、僕はあの薔薇迷宮でお前に命令した。
お前は永遠に僕の執事だと!」
・・悪魔としての生の最期のその瞬間まで、お前は僕のしもべ。
その髪の毛一本から爪の先に至るまで、僕の所有物なのだ。
支配の見返りは何も無く、ただその一挙一足、吐く息ですら、主のために捧げられなければならない・・
作品名:永遠にうしなわれしもの 第一章 作家名:くろ