永遠にうしなわれしもの 第一章
ふっと一息吐いて、シエルは元の深海を讃えるような深い蒼色の瞳を閉じた。
馬車の揺れが浅くなっていく。
山岳地帯を抜けたらしい。
もう2度と会うことの無い人々の顔が、次々と記憶の底から蘇っては、また忘却の淵へと流されていく。
離別を惜しむという類の感情はなく、
ただ近くに咲く花に止まった蝶が、
また再び羽ばたいて消えていくのを見ているのに似た心持だ。
うっすらと眼を開けて、眼前の悪魔を見る。
・・お前は僕のもの。
永遠に開放したりはしない。
その完璧主義者でストイックな悪魔は、
自らの美学によって作り出された永遠のくびきを背負うのだ。
何と哀れな・・
そんな思いに駆られると、
また自然に口角が上がり、笑みがこぼれる。
セバスチャンは沈黙の中に広がる、
主の暗い微笑に気がついてはいるのだろうが、
相変わらず無感情な眼で、
時間すら止まっているかのように
微動だにしない。
作品名:永遠にうしなわれしもの 第一章 作家名:くろ