永遠にうしなわれしもの 第一章
「しばらく城内を散歩されますか?」
「ああ、そうしよう。」
廊下に出ると、壁の松明が次々に点火され、
予想以上に長いことが分かる。
突き当たりの扉をあけると、そこには大理石でできた回廊が広がっていた。
半円形のアーチと凝った彫刻を施された太い列柱越しに見えた中庭は、
まるで絵画のようで、自然にシエルの足もそちらに向く。
満月に照らし出された中庭の、
中央にある噴水から流れ出る水を聞いていると、
シエルは突然、喉の渇きを覚えた。
「お飲みになりますか?」
後ろを振り向くと、セバスチャンは銀の盆の上に、
真紅の液体の入ったベネチアグラスを持っている。
ワインにしては透明度の無いその液体。
「それは何だ?」
あらかた答えは予想できるのだが、それでも聞かずにはいられない。
「言うまでもありませんが、人間の血です。」
平然とセバスチャンは答える。
「悪魔の乾きを満たせるものは、他にありませんから。」
作品名:永遠にうしなわれしもの 第一章 作家名:くろ