永遠に失われしもの 第二章
「悪魔学の博士課程でも取るおつもりで?」
不意に話しかけられて、びくっとするシエル。
「失礼しました。ノックしましたが没頭されているご様子で、お気づきになりませんでしたでしょう?」
セバスチャンはそう言うと、燭台を円形テーブルに置き、
ティーカップを銀のワゴンに丁寧に戻している。
確かに読書用椅子の周りには、これでもかというばかりに悪魔関係の本が散乱していた。
「坊ちゃんがそんなに勉強熱心だったとは知りませんでした。
以前もそうでありましたら、随分と楽でしたのに。」
手早くテーブルクロスを畳みながら、にっこり優雅にセバスチャンは微笑む。
・・・・・・・
確かに人間であった頃と比べれば、短時間に恐ろしい勢いで本を読破し、
その知識を吸収することができることは、
読み散らかした本の数を見ても明らかだった。
「僕も・・体が変わったりする・・のか?」
「体が、変わる?--すみません、質問の趣旨がよく分かりませんが。」
馬鹿げた質問だとは思いつつも、ためらいがちにシエルは尋ねる。
「変身とか・・・化け物になるとか」
そう、どんな書籍を読んだって、本当の悪魔のことなど、これっぽっちも分からない。
実在する悪魔に聞く方が百倍早いというものだ。
ただし、セバスチャンが誠心誠意答えてくれるなら、の話だが・・・
「化け物とは--」
ふーっと大きくため息をついて、一瞬呆れたような、
それでも切なそうな表情を見せた後、目を閉じるセバスチャン。
「いささか表現の仕方が稚拙ではありますが・・・
坊ちゃんは、人間から悪魔になられたのですから、
本来の形が変わるということはありませんよ。」
--ご自身で望まない限りはーー
作品名:永遠に失われしもの 第二章 作家名:くろ