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永遠に失われしもの 第二章

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 「夕食の準備はできておりますが、如何致しますか?」
 
 「ああ、今でいい。」

 「それではダイニングルームまで、ご案内します。」

 書庫の全てのランプのねじをしめると、セバスチャンは燭台を片手にドアを閉める。

 階段を降り、また回廊を通って、
 反対側に同じように長い廊下が続き、その突き当りの扉を開けると、
 「こちらでございます。」
 と言って、シエルに入るように勧めた。

 天井は高く丸みを帯びていて、白く太い大理石の円柱に囲われているものの、室内は広々としている。
 部屋の中央には、長いダイニングテーブルがセットされてあり、
 大小様々なガラス食器の中、一定感覚で淡いブルーの薔薇が添えられていた。

 セバスチャンは一番奥の席を引いて、シエルに腰掛けるよう誘導する。

 「本日のディナーは、イタリア料理から、
 前菜に生ハムとメロン、
 プリモピアットに黒トリュフのペンネ、
 セコンドピアットに馬肉のバルサミコソース和え、
 コントルノとしてフィノッキの煮込み、
 をご用意させて頂きました。」

 「食前酒はスプマンテになさいますか、それともベルモットに?」
 二つのボトルが置かれたワゴンを眺めて、シエルはスプマンテを指差す。

 「承知しました。」
 食前酒用の小さなグラスに、セバスチャンがボトルを近づける。
 何も満たされない杯を飲み干す。

 それから次々現れる皿の数々にも、何も載ってはいない。

 たっぷり時間をとり、ディナーが終わったところで、
 「ではドルチェをお持ちいたしましょう。」
 
 「今日はパンナコッタをご用意致しました。」
 と言って、セバスチャンは最後の皿を給仕する。

 シエルは人間であった頃食べた、セバスチャンの数々のスィーツを思い出し、
 その甘さを恋しく思い始めたそのときに、 
 セバスチャンが食後酒を勧めてきた。
 
 当然、空のカットグラスが目の前に置かれたが、
 そこで脇に立つセバスチャンは手袋を取り、銀のナイフを手の平に当てて、すっと引く。
 ほとばしり出る血を、シエルの前に置かれたグラスの中に一滴も漏らさず流し込み終えると、
 何事もなかったように、ナプキンで手を包み、
 「どうぞ。」とグラスを差し出す。