永遠に失われしもの 第二章
甘く心を溶かしてしまいそうな声で、なおも囁かれる言葉。
「人間の細いうなじの柔らかな感触を楽しんで、
切り刻み、血で身を潤わせ、その悲鳴を聞きながら、
悲嘆と絶望に染まったその魂を、
歓喜に震えながらしゃぶりつくのです。」
シエルはもう半分我に返っているのだが、
1度知ってしまった血の味に、貪りつくのを止めることすらできない。
その囁きに、脳裏で想像する甘美な世界を重ね合わせ、
ついにその傷からでる血の味が薄くなるまで、暗い背徳の喜びに浸っていた。
あまりに一心不乱に吸い続けたせいで、傷から口を離したときには、
シエルの呼吸は随分荒くなっていた。
「まったく困った方ですね。」
と、ため息まじりに、セバスチャンはつぶやく。
「それでもどうしても、人間の血はお飲みにならないと?」
「当然だ!」
シエルは未だ荒く息をしつつ、ふてった様子で答える。
「では毎回このようになさるお積りなのですか?」
意地悪い目をして、不敵な微笑とともにセバスチャンは尋ねた。
「さすがに悪魔におなりになっているので、
急所である喉笛や、傷口など、
まったく嫌なところばかり狙われますね。」
シエルは自分ではそう意識してはいなかったが、言われてみればその通りだった。
「ふん。」
「どうしても私の血しかお好みではないというなら、
せめて支障のない場所にしては頂けませんか?
手はいろいろ使いますので、困ります。」
「別に貴様の血が好みという訳じゃない!!」
「ふふ。」
シエルの答えに微笑してから、
セバスチャンは新しい手袋をつけ直して、テーブルを片付け始めた。
作品名:永遠に失われしもの 第二章 作家名:くろ