永遠に失われしもの 第二章
「しかし残念ながら、私は--
襲われて悦ぶ趣味はないもので。」
と言って、セバスチャンはにっこり微笑んだ。
「そんなこと・・・言われなくたって分かってる。」
シエルは口を尖らせて、そっぽを向く。
「それでは、ぼっちゃん。欲しいときは、
きちんとおねだりしてくださいね。
支障の無い場所を、ぼっちゃんの為に提供いたしますから。」
シエルが振り返ると、セバスチャンは人差し指を立てて、耳たぶを指差している。
「ふん!」
顔が熱くなってくるのがわかって、シエルは思わず下を向いた。
セバスチャンの微かな笑いが聞こえる。
「ところでぼっちゃん、私は少し出かけます
が、また本の続きをご覧になられますか?」
シエルが決めかねていると、
「ヴァイオリンの練習をされるなら、先ほどの書庫の隣に、
練習室がございますので、そちらでどうぞ。
遊戯室は、ダイニングの手前にございます。
ご自由に、ご散策ください。」
と言って、セバスチャンは下がった。
途端に緊張が解けて、シエルは椅子の背もたれにぐったりと身体を預ける。
しかし直にすぐ退屈になって、
しばらくあたりをうろついてみようかという気になった。
作品名:永遠に失われしもの 第二章 作家名:くろ