永遠に失われしもの 第三章
セバスチャンが自室で着替えを済ませ、
執事室へと戻るやいなや、書庫の呼び鈴が鳴った。
「何かお呼びですか?」
セバスチャンは手を胸に当て、恭しくお辞儀をして、部屋に入る。
「もう、傷はいいのか?」
本から目を離さないまま、シエルが尋ねる。
「はい、おかげさまで。」とにっこりセバスチャンが微笑んだ。
「悪魔の剣、レーバテインとかいう、
あの剣はもう消え失せてしまったのか?」
シエルは本を閉じ、セバスチャンを見つめた。
・・服はいつもの通りに戻っているが、あんな怪我がこんなにも早く元に戻るのだろうか?・・
「ええ、多分もう2度とは出てこないでしょう --」
「他に悪魔を殺せる魔剣の類は存在しないのか?」
セバスチャンは、考え込むような顔をして、
顎に手をあてた。
「そうですね。
世の中には、魔剣の伝説の類は沢山あります。
例えば、ケルト神話のクラウ・ソラスやフラガッハ、
北欧神話のバルムンクやミョルニル、東方にも様々な魔剣の伝説があり、
それらの幾つかは実在するそうですが、
まだお目にかかったことは、無いですね。」
返事をしながら、セバスチャンは、窓に歩み寄り、カーテンを開ける。
途端に朝日が差し込んで、シエルはもうこんな時間だったのかと驚いた。
「何故そんなことを聞かれるんです?」
「別に、ただ気になっただけだ。」
頬づえをついて、シエルは本の背表紙をいじっている。
「もし魔剣を手に入れたら、どうなさるおつもりですか?」
セバスチャンは、シエルに顔を近づける。
「今は、悪魔は私とぼっちゃん、二人きり。
私と斬り合いでもなさるおつもりで?」
「そんなことは考えてない。」
「それは、良うございました。
私は執事ですので、主には刃は向けられません。」
と、セバスチャンはいつもの微笑を浮かべた。
ふと、視線を落とすシエル。
作品名:永遠に失われしもの 第三章 作家名:くろ