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永遠に失われしもの 第三章

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本をしまおうとシエルが立ち上がると、
 急に夜の帳が落ちるかのように、目の前がだんだん暗くなっていった。


 どこまでも沈んでいく・・・
 と、誰かに抱きかかえられたような感覚
 目を次第に開けると、セバスチャンの見慣れた甘い果実酒のような瞳・・
 そして腹を抉られる強烈な痛み・・

 や・め・ろ!!!!

 「ぼっちゃん!?」
 シエルが目覚めると、そこは寝台で、
 傍らにセバスチャンが、心配した顔で寄り添っている。

 起き上がろうとするが、身体に力が入らない。
 「無理ですよ。
  ご自分がどれだけ長く眠っていらっしゃったと思っているのですか?」

  舌がからみつくほどの渇きで、声を出そうとしても、出ない。

  セバスチャンは手袋をはずすと、自分の手首を噛み切って、シエルの口元近くに寄せる。

  ぽたっぽたっと、シエルの口の中に血が落ちると、次の1滴が待ちきれなくなって、
  シエルはその手を思い切り引き寄せて、吸い始めた。

 「そこまで飢えても、けっして人間の血と魂を食さないおつもりですか?」

 「その飢えは、やがて貴方の全ての感情や理性を凌駕して、
  狂気へと導くのだとしても?

  いいですか?ぼっちゃん。
  たとえ貴方が清廉潔白な悪魔を目指しても、その体はそれを許さないでしょう。

  気づいたときには我を忘れて、人間という人間を喰らうようになるのだから。

  飢えや狂気を凌ぐ唯一の方法は、魂の契約を人間と結ぶことです。
  代価さえもらえるのなら、少なくとも人間の一生分くらいの飢えは、
  貴方なら凌げるでしょう。
  けれども代価の見えない、飢えは貴方を蝕んで、やがて壊してしまう。」

  「貴方自身の手を汚すのがお嫌でしたら、私が貴方のためにご用意した魂を・」

 シエルは手首から口を離し、弱々しく手を伸ばして、セバスチャンを制し、
 やっと出るようになった声で言った。
 「僕が・・・決める。」