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空と太陽を君に

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レイは守れそうに無い約束はしない人だった。だからシンはレイを信じたのだ。どんなに不安になっても、どんなに心細くなっても、時には戸惑いと恐怖に似た畏怖を感じた時もただひたすら信じた。
けれど不安に、なる。
とても…今。こわい。
シンは桟橋に立つ細い背中に気づいていた。肩までの金色の長い髪を後ろで一つに結び佇む人をじっと見つめる。何度も確かめるように目を瞬かせた。
喉がからからに渇いて、声が出ない。知らず知らず震える手を誤魔化すように拳を握りつめる。
「あ…」
掠れた声が零れ出た。彼と自分の距離は約30メートルほどだ。それがほんの数メートルにも永遠に届かない距離のようにも思えて背筋が震えた。
気づいて。
きづかないで…。
振り向いて。
いや、振り向かないで。
心が千切られそうなほど痛い。
(レイ…!)
ぎゅっと瞼を閉じると冷たい風が吹いた。
さらさらと長めの前髪が自分の頬を滑っていくのが擽ったい。何もかもを管理された、このプラントの造られた風も、太陽も空も。お前がここに居るというだけで何もかもが違ったものに感じる。
レイだけ。
アカデミーの頃の、あのどん底にいた自分のモノクロの世界に色をくれたのはレイだけ。戦争の真っ只中にあって、レイだけが自分の思いに耳を傾けてくれた。
(怖がるな…)
声をかけよう。
そう思って口を開きかけたその刹那だった。
「レイ…!」
「…っ」
まるで悲鳴のような声に目の前の金髪もシン自身も驚いて肩を揺らした。自分ではない声がレイの名前を呼んだからだ。
反射的に振り返ってその名前を呼んだ声の主を見ると、そこに立っていたのは随分と若い女だった。栗色の短い髪をした目の大きな可愛らしい。その彼女がシンとレイとを交互に見つめて顔を強張らせている。
「ユイ…」
気づけば、レイはこちらを向いて薄く笑っていた。その唇からは自分ではない人間の名前が紡がれて、シンは体も意識も一瞬どこかにとんでいってしまったのではないかと思うほど現実感というものがまるでない。
「レイ、どうしたの…こんなところで」
ユイと呼ばれた少女はシンの傍らを不審そうな顔を隠そうともせず見ながらレイへと走り寄った。
「いや…誰かに…呼ばれた気がして出てきたんだが…」
気のせいだったか…。
そう言って首を傾げると金色の髪が揺れた。
耳慣れた声。
悲しいほど、彼は彼だとシンは思った。瞳の色。笑い方。声の出し方、仕草…何をとってみてもシンの知るレイ・ザ・バレルだったのだ。
「駄目よ。ほら、風も冷たいし…帰りましょう」
コツコツと足音を立てて呆然と立ち尽くしているシンの方へと歩いてきた。まるで少女はシンからレイを庇うように、守ろうとするように。
二人を見てもシンは動けない。距離が縮まり、腕を伸ばせば触れられる所まで歩いてきてもレイはシンを捉えない。まるで視界にすら入っていないように、吹く風のように、流れる雲と同じように彼にとっての自分は…。
「………」
そこまで考えて、ふいに雫が頬に流れ落ちたのを感じた。
「レイ…俺だよ、シンだよ!」
肩がすれ違う瞬間、堪らずに声を荒げた。
(生きてた…)
レイは、生きていた。
それなのにレイは知らない人間の隣を歩き、声をかけた自分など初めて見たと言わんばかりに目を丸くして立ち止まり、こちらを振り返っている。その顔はありありと不審感を顕にした険しいものだった。
唇が動く。
「誰だ?」
「………っ」
(だれ、だ…?)
その言葉が耳に届き、脳へと伝わり意味を理解した時、今度こそシンは鈍い痛みに体を貫かれたような衝撃が襲った。
途端に体を震えが襲ってくる。
「わすれ…忘れちゃったのかよ、レイ…それとも、ふざけてんのかよ!」
ぎしぎしと、軋む体を動かしてレイの肩を掴むと隣にいた少女が悲鳴をあげた。
「何なの、あなた!」
「何を…」
身を捩らせたレイの腕に縋るように、体重をかけた。引き止めるように…。
「どうしてそんなこと言うんだよ、レイ…っ」
「どうしても何も、オレはお前のことは知らない」
こんな時まで冷静な、レイの態度に苦笑する余裕もない。
お前のことは知らない?
知らない?
知らないってなに?
何が『知らない』なんだよ。誰を知らないんだよ。何を…っ。
足元から崩れ落ちていくような気さえした。
「どうして、そんな意地悪言うんだよ」
俯いて腕を引っ張る。ぽたぽたと年季の入った色になった木製の桟橋に止め処なく涙が零れ落ちて染みを作る。久しく零れなかった涙が、堰を切ったように止まらない。
なぜ、と自分に問うこともできない。
虚脱感と悲しみが一気に体を襲う。
動けない。
それでも気力を振り絞って、叫んでいた。
「レイ!どうして…どうしてっ」
「シン…シン!!」
突然、響いてくる慌てふためいたルナマリアの声にゆるゆると首を振って涙を落とし、手の甲で乱雑に拭って振り返ると、そこにはルナマリアだけではなくアスランの姿もあった。
「ルナ…アスランさん…」
「シン!」
心配そうに名前を呼ぶアスランの声に視界がぐらぐらと揺らいだ。膝に力が入らずバランスが取れなくなってよろめいたシンをレイと少女が驚いて振り返った。
「シン、大丈夫?」
カツカツと乾いた足音を立てて、シンの傍らを支えたルナマリアはその顔色の悪さに驚く。
「…シン…」
「し…ん?」
レイの声に、ルナマリアは真っ青になっているシンの顔を覗き込んでいた頭を上げて、視線を投げた。
一年前まで、確かに傍いた友達で、戦友でもあるレイへと。
「レイ…」
しかし、ルナマリアの足はレイと少女の二人を前に完全に止まってしまい、呆然と目を見開いた。
「レイ…あんた、やっぱり…生きてたのね」
「ザフト軍の方々がいったい何の御用なんでしょうか」
少女は顔を強張らせたまま、ルナマリアの前にレイを背中に隠すように立ちはだかる。必死に背伸びをして大きくみせようと胸を張る。しかし、ルナマリアには、この事態がさっぱり分からなかった。
「え…ちょ…なに?何なの、あなた」
「ルナマリア、何だかレイの様子が違うんじゃないのか」
慌てて近づいたアスランも細かく肩が震えているシンを支えた。
「アスラン…でもあれ…レイですよ?」
アスランは憮然と振り返る彼女に頷きはしたが、きょとんと事態を今ひとつ飲み込めていないと言った顔のレイは視線を泳がせている。
「帰ってください。ここには、軍の人が来て喜ぶものなんて何もないですから」
ユイはふとした瞬間に震えそうになる声を、わざと大きくはりあげてルナマリアでも、アスランでもなくシンに叩き付けた。
その声音には、どこかに刺々しい響きが潜んでルナマリアは眉を潜めた。
「私達は貴方ではなく、レイ・ザ・バレルに用があるんです。レイ…どうしてよ。何で何も言ってくれないの?シンは…ずっとアンタのこと探し続けていたのよ?」
「レイ、行きましょう…体に障るわ」
戸惑ったままのレイの背中に寄り添ってユイは早くこの場所から立ち去りたかった。
「シン…」
綺麗な唇から、零れ落ちるように名前を呼ばれてシンは痛む頭を無理やりに起こした。
「えっ…」
「シン・アスカとはお前のことなのか?」
何の悪意も躊躇いもなく、レイの発した一言にその場にいた全員が凍りついた。
作品名:空と太陽を君に 作家名:ひわ子